「バリー・リンドンとFilmworker」キューブリックに魅せられた男 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
バリー・リンドンとFilmworker
スタンリー・キューブリック作品のバリー・リンドンの生涯は壮絶だ。
そして、バリー・リンドンを演じたレオンの生涯も…、自ら臨んだとはいえ壮絶だ。
キューブリック作品には逆説的アプローチが多い。
「時計じかけのオレンジ」のアレックスや、
「2001年宇宙の旅」のコンピュータHAL、
「シャイニング」でジャック・ニコルソンが演じたジャックも、
「フルメタルジャケット」でヘルメットにBorn to kill と書いていたジョーカーも軍曹ハートマンも、
彼ら(HALは人間ではないけど)の置かれた壮絶或いは違和感の強い状況を考えたら、ある意味最も人間的とは言えないだろうか。
こうしたなか、バリー・リンドンは大河ドラマで、主人公のエゴ丸出しと言っても過言ではない生き方は、逆説的ではないにしろ、人間の本質を表しているように思う。
なぜ、レオンはバリー・リンドンをもって、役者を辞めようと考えたのか。
演じたバリー・リンドンの生涯が壮絶過ぎて、人生を生き切ったように感じたのだろうか。
キューブリック作品に関わり、そこで描かれる様々な登場人物の人間の本質に触れ、特異な人間の生涯を更に追体験しようとしたのだろうか。
いや、実は、スタンリー・キューブリックこそが特異で、予測不能だからこそ、キューブリック作品に関わり、スタンリー・キューブリックを同時に体験したいと考えたのではないだろうか。
でも、どうしてあんな過酷な生活に耐えられたのか、それは映画を観終わっても謎のままだ。
だが、その後の多くの作品がレオンなしには生まれなかったとすれば、やはり感謝しかない。
それほど、スタンリー・キューブリックの作品は興味深く面白い。
アイズ・ワイド・シャットの短い場面にレオンを起用したのは、健康を害していたスタンリー・キューブリックの感謝の気持ちの表れだったのかもしれない。
どのようにすれば納得するのかを最も良く理解していたレオンに対する。
バリー・リンドンの壮絶な生涯を演じ、壮絶なスタンリー・キューブリックの右腕として生きる。
昨年IMAXで観た、2001年宇宙の旅のリマスター版にもレオンが関わっていたのだろうか。
映像リマスターの技術も日進月歩であるだろうから、長生きして、貴重な映像を後世に伝えて欲しいと心から思う。
自らをFilmworkerと名乗るレオンのプロフェッショナリズムに感謝だ。