「スピルバーグの熟練の技に酔いしれる」ウエスト・サイド・ストーリー moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)
スピルバーグの熟練の技に酔いしれる
オープニングショットから魅せるスピルバーグ版のウエスト・サイド・ストーリーは、とにかくカメラワークと照明が美しい。ミュージカルなのに、ダンスシーンではまるでアクション映画のように縦横無尽なカメラ(と言っても意味なく適当に動いているのではなく、それが次の場面へとスムーズに繋がっていく快感。)また、夜の場面の影を強調した照明、50年代、60年代の映画を思わせる美しい贅沢なセットが新しい映画なのにも関わらず、この映画に生まれながらのクラッシックな雰囲気を与えている。
最後まで一画面一画面が見事に構成されており、絵に関して飽きる暇がない。それぞれのグループを赤と青の異なる色彩で描き、恋が高まる場面ではカメラの逆光のフレアが大きくなり鮮やかな色に、不安や悲しみの場面では陰影が深くなり、棚や窓越しからの撮影でキャラクターがフレーム内の狭い空間に捕らえられているかのように見せる。ストーリーと音楽、映像が一体となり、監督スピルバーグ&撮影監督ヤヌス・カミンスキーの卓越した熟練の技を堪能出来た。
代表曲「アメリカ」「トゥナイト」「アイフィール・プリティ」等それぞれの場面が素晴らしいが特に「アメリカ」のストリートでのダンスの躍動感。「アメリカ」での主役マリアの兄の恋人、アニータを演じたアリアナ・デボーズの見事なダンスと演技の輝きは正直主役の二人を食ってしまっているほど。彼女の事は映画を見るまで知らなかったが、これから注目される俳優なのは間違いない。
旧作では当時の日本人にとってはわかりにくかったであろう移民間の人種の対立問題も実際にそれぞれの人種が演じている事と、言語の違いを強調する事でより鮮明になっている。明らかに新しい要素として入れられているトランスジェンダーのキャラクターへのわかりやすい差別だけではなく、同じ人種同士でも、実際には肌の色の濃さやヨーロッパのどこの出身かで微妙な差別がある事もわかってくる。近年の都市の問題であるジェントリフィケーションが実は主人公らをより生きにくい場所に追いやっていることも全編を通してほのめかされている。
正直言って、中盤はテンポを良くするために、削れるシーンもあったのでは?とも思ったが、オリジナルの「ウエスト・サイドストーリー」同様、古典的名作に将来なりえる見事な作品である事に間違いはない。映画を見る醍醐味を味わえる作品である。