「スピルバーグは映画の達人だった‼️」ウエスト・サイド・ストーリー kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
スピルバーグは映画の達人だった‼️
『ウエスト・サイド物語』('61)は私の好きな映画ランキングの上位に挙がる作品。
スピルバーグがリメイクするというニュースに、今その意味があるのか疑問に感じた。あの名作ミュージカル映画は完璧である上に、スピルバーグにミュージカルもラブストーリーも結びつかない気がしたからだ。
しかし、スピルバーグに頭を下げねばならない。
構図とカットのスピルバーグ魔術が、ダンスシーンはスピーディーかつダイナミックに、ラブシーンはよりロマンティックに美しくリニューアルさせていた。
人種間の対立や縄張りをめぐる争いという物語の背景についても、半世紀以上隔てた現代も存在し続けている黒人やアジア人差別の実態を憂いて今一度問いかけたのだろう。更に、純愛がその犠牲になることの悲惨さをより強く明確に訴えかけている。
やはり、スピルバーグは映画(エンターテイメント)の達人だった。
「体育館でのダンス(The Dance at the Gym)」連曲のクライマックスとなる「マンボ(Mambo)」、アパートメントからストリートに繰り出して展開される「アメリカ(America)」、この2つの集団ダンスシークェンスには身震いさえした。
前者は、それぞれに衣装の色調が統一された2つのチームの男女が踊る真っ只中にカメラが入り、ダンサーたちの高い身体能力を圧倒的な迫力で見せつけて、いよいよ沸騰していくジェッツとシャークスの対決ムードを駆り立てる気配だ。
後者は、計算し尽くされたカメラワークと演者のパフォーマンスが見事にスウィングしていて、プエルトリカンの女性陣と男性陣の掛け合いに街の生活者を巻き込んで愉快だ。そして、アニタ役のアリアナ・デボーズをセンターにした褐色の女性たちの迫力あるダンスシーンには、アメリカで理想の生活を手に入れようとする女性たちの力強さが溢れていて圧巻だ。
トニー(アンセル・エルゴート)とマリア(レイチェル・ゼグラー)の究極の一目惚れシーンは、二人が視線を交錯させるその時、それぞれの視点で相手を捉えたショットのライティングによる色使いが美しい。そしてお互いに操られるように体育館のスタンド裏に回り込んで急接近するが、そこには人目を避ける奥ゆかしさがありながらも、大胆な女性主導で進展するところがスピルバーグらしさか。
トニーがマリアと再会して二人で「トゥナイト(Tonight)」を歌う非常階段の最も有名なシーンは、二人の間を遮る障害物をトニーが越えられず、トニーの無力さを暗示しているともとれる。二人に距離があるため、デュエットに映画的な動きが加わってもいる。
'61年のロバート・ワイズ版とは一部で曲順を変えている。もしかすると舞台版の構成に戻しているのかもしれないが、歌い手が変わっている曲もあるので、意味合いも変わっている。
最も大きな変更は「クール(Cool)」と「サムホエア(Somewhere)」だろう。
「Cool」は、ワイズ版では決闘後に復讐に気がはやるジェッツのメンバーに、No.2のアイス(タッカー・スミス)が「落ち着け」と、それこそクールに歌い踊る。
本作では決闘前に拳銃を手に入れたリフ(マイク・ファイスト)に対してトニーが「冷静になれ」と思い止まらせようとするが、拳銃を奪い合う激しいバトルに発展する。床板の穴を使ったスリリングな振り付けを、絶妙な構図のカット繋ぎで見せる演出はサスガとしか言いようがない。
舞台版でも決闘前に歌われるが、リフがメンバーを落ち着かせようとする場面…だったはず。
「Somwhere」をドラッグストアーの女主人ヴァレンティナがソロで歌うのには驚いたが、彼女こそワイズ版でアニタを演じてオスカーを手にしたリタ・モレノその人だった。彼女は製作総指揮としても名を連ねている。
どこか遠くへ行けば平和に暮らせる場所かあるはずと希望が込められたこの曲は、ワイズ版では、事件後にトニー(リチャード・ベイマー)とマリア(ナタリー・ウッド)が自分達の未来に望みを託して歌う。
舞台版も同じだったと思う。
本作では、とてつもない不幸に見舞われた若い恋人たちを慮った老婆ヴァレンティナが、ひっそりと祈るように歌う。この曲の位置を変えたことで、マリアの部屋でアニタとマリアの間で交わされる「あんな男に〜私は愛してる(A Boy Like That/I Have a Love)」が引き立っていて、涙を誘う。
メインキャラクターたちがそれぞれの「今夜」を歌い上げる「トゥナイト/クインテット(Tonight /Quintet)」が、このミュージカルのクライマックスナンバーだと思うが、先に述べた集団ダンスのシークェンスが凄すぎた分、このシーンの盛り上がり方はワイズ版に軍配を上げたい。
若者が、自分達が道を踏み外すのを社会や大人たちのせいにしたがるのは、時代も洋の東西も問わない。ある面において正しいのだろう。
「クラプキ巡査への悪口(Gee, Officer Krupke)」でジェッツのメンバーは、親が悪いの、社会が悪いの、自分は病気だのと歌う。
軌道を外れてしまった若者たちを制止することは容易ではない。決闘での惨劇すら、彼らにとって教訓にはならないのだ。
更なる悲劇の引き金となるアニタへの暴行騒ぎを止める役回りをリタ・モレノ演じるヴァレンティナに置き換えたことには、皮肉が込められている気がする。
ヴァレンティナはプエルトリコ移民で、白人のドラッグストアー店主と結婚し、ジェッツのメンバーもシャークスのメンバーも赤ん坊の時から見てきた存在だった。
彼女はジェッツの面々に「リフに恥ずかしくないのか」と言って諭すが、60年前に自分が演じたアニタからは「裏切り者」と罵倒され、言葉をなくす。
ラストシーンで、拾った拳銃を警官に渡すヴァレンティナとそれを受けとる警官の図は、大人たちの無力さを示しながらその先に、元凶が大人たちに(歴史に)あることを示唆していないだろうか。
バーンスタインが産み出した名曲の数々に対する新アレンジは、オリジナルの魅力を崩さずオーケストレーションがスケールアップしている。
どうやら、発売されたサウンドトラックアルバムにはジョン・ウィリアムズによるライナーノーツがセットされているらしい。
これは、お宝度が高い。
kazzさんのレビュー、素晴らしいを通り越して凄いです。
カメラアングルとか撮影方法・・・などなど。
「ウエスト・サイド物語」の曲と歌詞とその順番が
全て頭に(耳に)入っているんですね。
それから私の「ウエストサイド物語」にも共感押していただきありがとうございました。
こんなふうに映画を、音楽を楽しめたらいいなぁと羨ましくなりました。
コメントありがとうございます。
スピルバーグはどんなジャンルにも柔軟に対応して、見応えある作品という結果を出す達人ですね。
ジョン・ウィリアムズのライナーノーツ、気になります。
コメントありがとうございます。
大ファンなだけあって、素晴らしく深いレビューですね! 私なんぞかじった程度なので…(^^;
あのシーンの楽曲ですね。
一見明るい楽曲にもメッセージが込められ、全てが登場人物たちや作品の“声”なんでしょうね。
kazzさんへ
コメントありがとうございました!
ジェッツとシャークスの決闘前からラストまでは戦争の縮図なんですね。ナイフが投げ入れられる事(武器供与)が無ければ、最悪の不幸は避けられたかも、ってのは現在社会への警鐘に見えました。
いえいえ、ウェストサイドストーリーに関するトピックならば、スピルバーグもロバート・ワイズも私には等価値です〜♪
(私にとって人生トップ5に入るのは旧作ですがそれは作品の甲乙の問題ではなく、自分の人生を共に歩んできたという理由によるものなので^ ^)
舗装道路を許可なくのエネルギッシュさ(笑)でも、70〜80年代もまだそういう無茶苦茶さは通じる時代でしたから61年の空気も推測はつきますね。四角四面の現在より好感を抱いてしまいます。
kazz様コメントありがとうございます。いえいえ淀川さんは激突は評価しています。オールタイム、No.1は・・・と言う感じです。
対談集は恐怖対談と言います。絶版になっているようです。
それにしてもkazz様のレビューは素晴らしい。構図についての考察。旧作との比較。勉強になりました。
コメントイイねありがとうございました。ご購入されてらっしやるかも知れませんが・・パンフレットは長文が場面ごとに続くもので、飛ばし読みができません。当然どこに何が書いてあるのかもピックアップできません。ご購入されてお持ちなのかも知れませんが。・・・精緻なレビュー素晴らしいですね。私のと比べると「月とスッポン」ですね。ご指摘も勉強になりました。ちなみにスピルバーグ。私の「人生映画ベスト10」に3作「ジョーズ」「シンドラーの・・」「プライベート・・」入っていますから、本作が「計算に基づいている」程度は私でも理解できました。ただあなた様の素養というか理解力が違いますねぇ。ありがとうございました😊😭勉強になりました。今後もよろしくお願いいたします。
『未知との遭遇』ですが、当時の不確かな記憶を辿ると、一番印象に残っているのは、不思議なことにトリュフオー監督(この作品では役者ですけど)の優しい笑顔なんですね。
もちろん、映画としての斬新さやラストに至る展開のスリルは十分堪能できました。同時期だったかどうか自信はないのですが、カール・セーガンの宇宙関連本となんだかダブった記憶になってます。
映画の中で遭遇を果たしたトリュフオー監督の笑顔とセーガン博士の現実世界での願いが映画の中で一致したかのような
kazzさん、いつもながら、流れるように読みやすいのに、深く優しいレビューですね。ラストの拳銃についての洞察もハッとさせられました。今の若者の生きづらさの元凶(多くの不遇な若者を生み出して成熟させる機会を奪っているのもそもそも大人ではないか)…そう思うと、スピルバーグは無邪気に昔を懐かしむ大人たちへの痛烈なメッセージも込めていた⁈のかもしれないですね。
kazzさん、コメントありがとうございます。
サントラ盤も欲しくなりますね~
トニーとマリアの歌のパートは全く同じらしいのですが、ちょっと聞き比べたくなります。
EL&Pに関しては、俺のこだわり・・・というか、誰も書かないだろうことを書きたかっただけです(笑)
なるほど!あの角度は道に穴掘ってたんですか!納得。
kazzさんも「アニタ」表記ですね♪私もアニータにせず敢えてアニタ表記にしたのは、自分なりのちょっとした拘りです(笑)
ヴァレンティナのSomewhereは、サウンドオブミュージックにて院長が歌うClimb ev'ry mountainを彷彿とさせました。
誰がどの場面で歌うかによって、意味や深みも随分と変わるものですね。
kazzさん
コメントを有難うございます。
アニータを演じたアリアナ・デボーズ(キレのある華やかなダンスも圧巻!)、マリアを演じたレイチェル・ゼグラー( 可憐で伸びやかな歌声が素晴らしい!)、バーンスタインの名曲の数々、リメイクされても尚輝きを放つ要素に溢れた作品でした。
kazzさんの深い思いに溢れた読み応えのあるレビューでした。
今晩は
凄く勉強になる素晴らしきレビューですね。
「ウエストサイド物語」が、総て頭に入っていなければ、このレビューは書けませんね。(私は、「ウエストサイド物語」を本作公開前の1週間前に駆け込みで観た俄か男ですから・・。)
私は、マダマダダナア・・。
これからも、含蓄ある素敵なレビューをお願いいたします。では、又。