「権力者に媚びいらなければ数多の思いも闇に消えるのか。」犬王 mmさんの映画レビュー(感想・評価)
権力者に媚びいらなければ数多の思いも闇に消えるのか。
わたしが1番最初に湯浅監督の作品を見たのは「夜明け告げるルーのうた」でした。あの中でルーが踊り歌うところのリズムがすごく良くて、観ているこっちもステップを踏みたくなるように楽しい作品で、ストーリーもとっぴな設定をうまくまとめてあって、とても好きな作品です。
後は「夜は短し歩けよ乙女」。これもとても変わった作風ですか、台詞回しもリズム良くカラフルな色彩に目が離せない作品です。
犬王ですが、オープニングに現れた現代の風景、最初は?でしたが、友魚の奏でる琵琶の音に身を任せているとやがてそのリズムは全ての音(環境音も含めて)から構成されているように聞こえ、映像の切り替わりのテンポと相まってぐいぐいと作品世界に惹きつけられていきました。ああ、湯浅監督作品だなあと。
ストーリーでは犬王がなぜあのような異形で生まれてきたのか、少しわかりにくい。犬王の父が自らの地位の為に、異形の面に宿る悪霊的なものにかけた願の代償ではあるのだけど、初見で分かりにくさから頭の中に?が生まれてしまい作品に没入する自分と俯瞰する自分ができてしまった。また、音楽も好きなジャンルではないがショーとして見る(聴く?)分には良かったけれど長過ぎて飽きてしまった。
あれだけ2人で創り上げた新しい平家物語を、権力者の前でいともあっさりと捨ててしまう犬王。異形の体は反権力の象徴であったかもしれないが、五体満足となったときあっさり恭順の姿勢をみせて(いちご白書か?)、おいおい犬王それでエエんか?友魚を助けなくていいのか?
権力者に頑なに恭順しない人気者友魚は疎ましがられるしかなく、三条河原で首を刎ねられてしまう。もうそこに音楽は無く、最後は湯浅監督の作品と違う趣を見せて唐突に終わりを迎える。
現代まで漂う霊と化した友魚に、あっさりと権力に恭順した犬王が現れるが、果たして救いとなるのだろうか。
原作ありきの作品だから仕方のないことだが、ラストの展開以外は充分に湯浅監督作品を楽しめるものだったけれど(音楽シーンは長すぎると思う)、ややストーリーに説明不足を感じ(三種の神器、草薙剣はどうなったのか?犬王の行く末はどうなったのか?)て、ラストもイマイチに感じましたがほんの些細なことかもしれません。
もう一度、台詞をはっきりと聞いてみたいから観るかも。日本語字幕が付けば良いかも。