「ロックンロールの鐘の声、リズム&ブルースの響きあり。 盛者必衰の理に抗う、二人の阿呆が踊り狂う!」犬王 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
ロックンロールの鐘の声、リズム&ブルースの響きあり。 盛者必衰の理に抗う、二人の阿呆が踊り狂う!
南北朝時代の京都を舞台に、実在した猿楽師・犬王と盲目の琵琶法師・友魚との、友情と狂乱を描いたミュージカル・アニメ。
監督は『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』の、巨匠・湯浅正明。
脚本は『図書館戦争』シリーズや『アイアムアヒーロー』の野木亜紀子。
琵琶法師・友魚を演じるのは『20世紀少年』シリーズや『怒り』の森山未來。
室町幕府第3代征夷大将軍・足利義満を演じるのは『横道世之介』『ピースオブケイク』の柄本佑。
友魚の父を演じるのは『探偵はBARにいる』シリーズや『ミュージアム』の松重豊。
国内外から高い評価を得ているアニメ監督・湯浅正明。
正直言って、自分は湯浅正明作品が苦手。
唯一無二な映像表現は確かに魅力的だが、大体どの作品もお話がいい加減🌀
絶賛されている『ピンポン THE ANIMATION』もそれほど良い作品だとは思えない…(追記:原作は『SLAM DANK』と対をなす、史上最高のスポーツ漫画の一つだと思っていますよ!ただ、アニメ版は改変が酷くて…)。
『映像研には手を出すな!』は面白かったけど、これは原作に忠実だったし。『映像研』は原作漫画が既に面白いからねぇ…🤨
という訳で今回もあまり期待していなかったが、松本大洋先生がキャラクター原案を担当している&予告編の出来が良かったので観賞。
結論から言えば、これまで観てきた湯浅正明作品の中ではダントツで素晴らしいっ✨
というか、日本アニメ映画の歴史に新たな1ページを刻み込んだと言っても過言では無い、紛うことなき傑作だと思います!湯浅監督凄いっ!👏
舞台は南北朝時代の京都。主人公は実在の猿楽師・犬王。
これだけ聞くと「なんだか難しそうな映画だな〜🤔」という印象を持たれることでしょう。
しかし、本作の観賞にあたり、事前知識は0でも大丈夫(さすがに源平合戦の事くらいは知っていないとダメだろうけど…)。
というか、普通犬王なんて人知らないよ。
この「犬王のことなんて知らない」という共通認識こそ、本作の要。
当時は絶大な人気を誇っていたにも拘らず、現代では忘れ去られてしまった猿楽師・犬王。
これもまた「おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」ということなのでしょう。
盛者必衰。諸行無常。
この必定の理に対し、どこまでも抗おうという姿勢がこの映画には感じられる。
生きるということが、結局は風の前の塵に同じだとしても、風前の灯火なのだとしても、それでも意味があるのだと言うことを全力で叫ぶこの映画を、嫌いになれる筈がないっ!
明日はどうなるか知らねども、今この瞬間だけは何者にも譲らない。その姿勢、正にロックンロール!yeah!
犬王と友魚の演じる猿楽を、まるでロック・コンサートのように描くという大発明は見事👏
湯浅監督曰く、これは何も誇張して描いたわけではないらしい。
記録に残っていないだけで、もしかしたら本当にこういう猿楽が演じられていたのかも知れない。
だったら、それを思うまま自由に描いてやろう!というのが湯浅監督の目的だったようです。
常識の殻に収まらず、自由な発想で歴史を紡ぎ直す。湯浅正明監督の独特なアニメーションは、正にこの歴史の修正にピッタリだと言えるでしょう!
異形でありながら、稀代のロックスターでもある犬王。その声を演じるという難業をやり遂げたのは、ロックバンド「女王蜂」のVo.アヴちゃん。
「まーた話題性重視の芸能人キャスティングかよ!素人に声優が出来るわけねーだろー💢」とか思っていてすみませんでしたっ💦
アヴちゃんの演技は本当に素晴らしかったです!ステージにおける歌唱シーンは勿論のこと、平場での会話シーンなども完璧✨しかも、犬王の形態が変わるごとに声音を変えるという常人離れした技も披露してくれます。
アヴちゃん、あなた天才!👏
忌憚のない意見を言いますが、プロの声優よりも上手いっすよこの人。この先もどんどん活躍してほしい。
(そういえば、2019年のTVアニメ『どろろ』の主題歌を歌っていたのは女王蜂だった。この映画の下敷きになっているのは間違いなく『どろろ』だが、何か関係があるのだろうか?)
犬王と友魚は、「名」を自ら選択する。自らの手で自分の名前を決めた彼らだけが、その生き方を選択する事が出来た。
しかし、足利という絶対的な「名」を持つ義満によって、彼らは悲劇的な運命を辿ることになる。
また観世座という「名」に従順だった世阿弥は後世まで語り継がれる存在となり、名を自由に決めた犬王は歴史の闇に葬り去られた。
この物語では、「名」に縛られて生きる者が栄光を手にし、「名」から自由になった者は破滅の道を辿る。
だがしかし、「名」の軛から逃れたものだけが、一瞬の生の煌めきを得る事が出来、またかつて「名」に縛られたが為に無念の死を遂げた者たちを鎮魂することも出来るのだ。
「名」に縛られるか、「名」を断ち切るか。言い換えれば家や組織に縛られるのか、自由に生きるのか。
どうせ人の一生は「風の前の塵に同じ」。
どっちを選んだところで、大きな違いはないのかも知れない。
んじゃあ、自分の好きな方を選べば良いんじゃない?とこの映画は言ってくれているような気がする。
大好きな設定とメッセージ性💕
だが、実はかなり大きな不満も残る…。
本作の目玉である猿楽ロック・ミュージカル。
正直、ここの描き方に疑問が…。
友魚がまず四条大橋の上で前座ストリート・ライヴ。そして、その後六条の方(だったかな?)で犬王のメイン・ステージが開催される、というのがパターン。
これが結構ワンパターンに感じてしまった。
特に友魚の路上ライヴはかなり同じような映像が続くし、それが繰り返されるので映像的に飽きてくる。
もっと多彩なパターンを見せてくれたら良かったのだが。
犬王の初舞台となる「腕塚」。
楽曲の素晴らしさも相まって、始まってすぐはかなりテンションが上がったのだが…。
犬王の派手な動きは確かに楽しいんだけど、割と動きがパターン化されていて、「そのダンスさっきも見た…」という感情が沸き起こってしまった。
カメラワークも、なんか定点カメラで映しているかのようなつまらなさ。
舞台装置なんかは面白かったんだけど、もう少し舞台演出は練った方が良かったのでは…。
「鯨」とか「竜中将」のシークエンスは良かったんだけど、いかんせんつかみとなるこの「腕塚」は弱かったかな。
劇中のサントラは確かにアガる!…のだが、あまりにもクイーンっぽすぎるのは気になるところ。ギターソロとかまんまブライアン・メイやないかい。
これだけオリジナリティに溢れる作品なのに、どうしても『ボヘミアン・ラプソディ』が頭をよぎる…💦
もう一点付け加えるならば、何故劇中曲にエレキギターやドラムの音を付け加えたんだろう?
少なくとも犬王の演技中に流れる楽曲だけでも、作中の登場人物たちが奏でている楽器と同じものだけで構成すれば良かったのに。
なんで琵琶からエレキギターの音色が聴こえるんだよ…🌀
今回もこれまでの湯浅正明作品と同じく、ストーリーが弱い。
有名脚本家・野木亜紀子が付いていることもあり、物語の骨子はしっかりしているのだが、ここぞというところで「うーん…」と思ってしまう。
特に、犬王の父親の扱いが雑すぎるっ!
彼の行動こそが、この『犬王』という映画の根底に関わる重要な出来事のはずなのに、結構そこはあっさりなのね。
退場のさせ方も適当。
犬王の父親の物語をもっと膨らませていれば、映画の見所も増えたと思うのだが。
最後のハッピーエンドも「?」。
犬王はこの後、義満からの寵愛を受け、「道阿弥」という名を授かる。
一体どういう思いでこの名を賜ったのか、そこは映画には描かれていないが、とにかく犬王はこの映画の後、文字通り義満の「犬」となってしまう。
父親を殺され、母も絶望の中で死に、己も無念の死を遂げた友魚。その背後にあったのは全て足利家。
友魚の足利義満への恨みは相当なものだったはず。だからこそ、600年も怨霊として現世に存在し続けたのだろう。
そんな友魚からしてみれば、義満の「犬」となった犬王は許すことの出来ない存在なのではないだろうか?
それなのに、なんか最後は2人がウフフって言いながら昇天しちゃって…。
なんかおかしくないっすか?
正直、このクライマックスには「無理にハッピーエンドにしなくてもいいのに😒」と思わざるを得ない。
等々、不満点もある訳だが、やはり好きか嫌いかでいえば断然好きな映画です。
少しでもアニメ映画に興味のある人は、絶対に映画館で観賞するべきですっ!👍
※〜簡単な時代設定〜
1185年…壇ノ浦の戦い。平家滅亡。
安徳天皇、祖母である二位尼と共に入水。その際、三種の神器も共に海底へと沈む。
源義経、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)と八咫鏡(やたのかがみ)を回収するも、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)だけは回収出来ず、消失してしまう。
1200〜1300年頃…『平家物語』が成立。琵琶法師たちが物語を日本各地へと広めていく。
1333年…後醍醐天皇、鎌倉幕府を打倒。建武の新政。
足利高氏、戦功を認められ「尊氏」の名を得る。
世阿弥のパパ、観阿弥が誕生👶
1335年…足利尊氏と後醍醐天皇、バチバチに争い始める。
1336年…足利尊氏、建武式目を制定して京都に幕府を開く。
後醍醐天皇、足利尊氏に三種の神器を譲る。
それを以て尊氏は光明天皇を新天皇として即位させる。
1337年…後醍醐天皇が渡した三種の神器は偽物だった!
後醍醐天皇は奈良へと渡り、そこに新たに朝廷を築く。
ここに北朝(京都)と南朝(奈良)が並び立つ南北朝時代が幕を開けた。
1358年…足利義満誕生👶
1363年…世阿弥誕生👶
1369年…義満が第3代征夷大将軍となる。
1375年…世阿弥、義満のお気に入りになる。観阿弥が率いる観世座は将軍お抱えとなる。世阿弥はこの時12歳。
1380年頃…犬王が頭角を現す。
1384年…観阿弥没😇
世阿弥が観世座の太夫になる。
1380〜90年頃…犬王、義満のお気に入りとなる。
1392年…南朝の後亀山天皇から三種の神器を接収。ここに南北朝時代は終わりを迎える。
1396年…犬王出家。自らを犬阿弥と号する。
1400年頃?…犬阿弥、義満より「道阿弥」という名を承る。
1408年…道阿弥、後小松天皇の前で天覧能を披露。
義満没😇
1413年…犬王没😇
1400〜1420年頃…世阿弥、能の理論書「風姿花伝」を執筆する。
1443年…世阿弥没😇
> 盛者必衰。諸行無常。 この必定の理に対し、どこまでも抗おうという姿勢がこの映画には感じられる。生きるということが、結局は風の前の塵に同じだとしても、風前の灯火なのだとしても、それでも意味があるのだと言うことを全力で叫ぶこの映画を、嫌いになれる筈がないっ! 明日はどうなるか知らねども、今この瞬間だけは何者にも譲らない。その姿勢、正にロックンロール!
たしかに。すばらしきレビュー、ありがとうございました!
> 「名」に縛られて生きる者が栄光を手にし、「名」から自由になった者は破滅の道を辿る。 だがしかし、「名」の軛から逃れたものだけが、一瞬の生の煌めきを得る事が出来、またかつて「名」に縛られたが為に無念の死を遂げた者たちを鎮魂することも出来るのだ
こちらもたしかに。このレビュー、ほんとに鋭いっすね。感激。
生きるということが、結局は風の前の塵に同じだとしても、風前の灯火なのだとしても、それでも意味があるのだと言うことを全力で叫ぶこの映画を、嫌いになれる筈がないっ!
明日はどうなるか知らねども、今この瞬間だけは何者にも譲らない。その姿勢、正にロックンロール!yeah!
これだ!
私は漫画>映画>アニメの順番ですね!
原作レイプ…とまでは言いませんが、やっぱりアニメ版は好きになれません…😅
『元彼の遺言状』は、特別ファンでもないですしドラマも観ていませんが、剣持麗子が綾瀬はるかだったのはかなりイメージと違いました。
実写なら北川景子とかかな?と思っていたのですが…。
やはりそこでしたか。
かなり思い切った改変入れてきたので賛否あるところだとは思いますが、私は割と賛の方かな。
正確には原作が頂点として、評価の高かった実写映画版よりはアニメの方が良かったらと思います。
優れた原作だけにいろいろな思い入れがあると思いますが、最近は原作にビビってこういう事を出来ない監督さんも多いので私としては応援したいかなと。
実写ドラマでよくある原作作品レイブとは少し方向性が違うのかなぁと。
今、「元彼の遺言状」原作ファンの人は本当に辛いと思います。
澤木正克さん、コメントありがとうございます😊
もちろん、「ピンポン」が松本大洋先生原作だというのは知っています。原作は通常版と愛蔵版の2セットを常備している程にはファン…というかもはや信者です💦
なので、正直アニメーションに関しては、原作の良さを全く引き出せていないと感じています。細かいことを書き出すとキリがないのですが、やはりドラゴン周りの原作改変は頂けないです😤
すみません本作に関してではなく、「ピンポン」がいい加減と言うのが引っ掛かってしまいました。
ピンポンは松本太洋先生の原作作品なのですが…ご存知で書かれてるならいいのですがちょっと気になりましたので失礼します。
ぷにゃぷにゃさん、コメントありがとうございます😊
やっぱりストーリーがもう一つって感じですよね💦
後深草天皇と亀山天皇のいざこざ…。持明院統と大覚寺統とかいうやつですね!
この映画を観賞して、鎌倉〜室町の歴史をざっと調べてみました。
いや〜、面白いですね!
昨日この映画を見ました。
ライブシーンはおもしろく見ていたのですが、最後はモヤモヤしてしまって…。
映像のクオリティは高いのに、ストーリーは残念な感じに思いました。
年表がすごい参考になります。
南北朝に別れるのは、元をたどると、鎌倉時代の後深草天皇と亀山天皇の兄弟の不仲もありますね。