「60年代 日本のサブカルチャー・ポップカルチャー」PROSPECT プロスペクト Naakiさんの映画レビュー(感想・評価)
60年代 日本のサブカルチャー・ポップカルチャー
この映画の本筋に入る前に、どうしても個人的に触れておきたいことがあり、多分関心のない方にはどうでもよいことで何をふざけているのかと、お叱りを受けるかもしれないのだが......?この映画の冒頭、娘のシーがヘッドホン?で聞いていたのが、R.H.Rivers(この人が誰かわかった人は凄い!)が作詞した"Crying in the Storm”で今回、歌っているのが Rita Chao & the Questsでその後多くの歌手がカバーしている。特に記憶にも印象にも残っているのが、5年ほど前に急逝された安西マリアさんの歌声やそのアレンジの仕方が一番、ノリノリだった記憶がある。それと今では死語?となっているかもしれないが寺山修司主宰のアングラ劇団"天井桟敷”と東京キッドブラザースのアルバム「書を捨てよ町へ出よう」から"Freedom”の曲が選択されているのは、日本人でも知らない曲を何故、この映画の音楽担当の方は、知って選んだのか、ただ単にノリのいい曲で訳の分からない言葉を使っているところに決めたのか?謎となっている。
だいぶ横道にそれたが、本作はインディーズ系Sci-Fi映画として2018年に制作された作品の中でも注目を集めている映画と言えるもので、製作費4.2億円ということを感じさせない映画作りがなされている。ただamazon.comではレンタル配信が始まっていて、そのレビューを見るとその点を指摘している。「他の人は冗談だと思っているのか?数人の田舎者が、首にアルパイン製のアンプを巻き、その上、頭には掃除機のホースをつなぎ、ルイジアナの周りをぐるぐる歩いているだけなのに.....ダメダメ映画!」(ただし、スターウォーズもカメラの電池部分を小道具さんが手作りしている。今では考えられないことだが)
またある人は、この映画を指して、アメリカのゴールドラッシュ時代の西部劇と表現している方もおられ、それは例えば、シチュエーションが多少異なるが、ジョン・ウエイン主演、ヘンリー・ハサウェイ監督の映画「True Grit(1968)」的であったり、その西部劇の部分で言えることは、傷ついたエズラが傷をいやすために立ち寄るところが、ネイティブアメリカンのティーピー風のものであったり、また接触した彼らとエズラが、まず最初にボディランゲージでお互いがあいさつをするあたりや同行しているシーを彼らが捜す通称:"gems"と交換しようとするシーンにおいて開拓時代を含めサバイバルという言葉が似あうものとなっている。それに加えて、亜空間飛行もできる未来なのにいかにも20世紀張りの小道具は出てくるし、武器にいたってはRemington 1858 New Armyの拳銃のようなものとなっている。
シカゴの"national theatre community”のメンバーで撮影当時17歳であった主演の一人、最初、彼女を男の子だと勘違いしていた自分がいた。すみませんミズ・ソフィー・タッチャー。それと最初、うさん臭くてアウトローのイメージしかなかったエズラ。彼がこの物語が進んでいくうちに、彼の人間性に触れたことによって、この映画の印象がすごくジョン・ウエインぽっくなって、人のいいおじさんが、救いを求めている者に対して、無鉄砲にも何も考えず、手を差し伸べるというある意味、人間の良心を感じることが出来るいい感じの映画になっている。しかも父殺しの男と思っている彼女とまた自分はこの西部では正当防衛だと思っている彼が次第に親子のように打ち解けあっていく様子は、いかにもステレオタイプのシナリオだけれどもついつい見てしまう。
多くの批評家から高い支持を受けている本作。アメリカの日刊紙、Houston Chronicleの記事によると「明らかに"Lo-Fi"な「プロスペクト」は、その要点を述べるためにマーベル映画の価値のあるCGIを必要としない。時代を逆行することによって、反ってスマートに楽しめる。」中華系アメリカ人がオーナーのLos Angeles Timesのレビュー記事の抜粋「この映画は、実際の場所(湿ったアメリカ北西部の森で撮影された)とサイケデリックなデジタル背景を組み合わせて作成された、エイリアンの世界を探求する詳細な描写とSci-Fi映画のジャンルにおけるスリル感とのバランスが保たれている。」アメリカで100年以上続くエンターテイメント産業専門の業界紙、Varietyの冒頭の記事の抜粋「この映画「プロスペクト」はインディーズSci-Fi映画が持ち合わせていないものを持っている。それは、いかなる人間も別世界に行ったときに喉から手が出るほど必要となるもの。それは、大気のようなものである。」
低予算を感じさせない映画作りがなされていると個人的には思うし、後半になってからは、主人公の二人の人間性が、好感が持てていて、また撮影現場の様子をYouTubeでソフィー・タッチャーがコメントしていたが、「声を出すだけでも難しく、特に長台詞の時は、撮影の一週間程はとても苦労した。」と述べていて、湿った土地柄もあって監督も重いコスチュームに加え、地面自体が滑りやすく、撮影に支障があったことを発言していた。そんなことを加味して、映画自体は言うことがないのだが、やはり、未来という設定には無理があるのは否めないし、常にヘルメットを被っていて、呼吸音が少し、セリフにかぶっているシーンも散見した。つまり、よく役者さんの声がクリヤーに聞こえないときがあった。映画全体は、冒険西部活劇として成立しているし、サックと観ることが出来るものとなっている。