「おくるみ」糸 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
おくるみ
歌詞もそうなのだけど…中島みゆきさんが奏でる声が、心に響く。
包み込んでくれるというか、泣き止むのをただじっと待っててくれるとか…なんでこんな感情になるのか、自分でも分からない。
「糸」という歌は恋の歌なのだと思ったいたのだけど、この映画を見て変わった。私と私に関わる全ての人との歌なのだと。映画としての解釈なのかもしれないけれど、凄い尊いテーマだと思う。
物語は蓮と葵を軸に動きはするが、その蓮と葵を形作っていくのは周りの人だ。周囲から何を学び、何に心を動かされるのか、その変遷が18年って時間をかけて語られていく。
曲のテーマから外れるのかもしれないが、乗り越えられない悲しみはないってメッセージをも感じる。
その時々に人から与えられる悲しみや悔しや、幸せや感謝、様々な出来事を経て彼らはまた出会う。
それと並行して癒えない傷はないと。
平成の30年、映画でも語られるが災害に見舞われた年号でもあったと思う。
でも僕らは生きている。
絶望に打ちひしがられても立ち直る才能があるかのように。それらを過去にしてしまえる能力がある。
だから、このコロナの時代もきっと乗り越えられる。僕らの時代にそれは叶わなくても、僕らの子供が成し遂げる。それを歴史は証明してくれている。
北海道・美瑛での結婚式。
2人は幸せそうに笑ってた。2人を再会させたのは彼の子供であり、彼の妻の教えだった。
今尚、絶望と戦ってる人達はいると思う。
原発もそうだし、豪雨災害や、これから起きる災害とも向き合わなきゃいけないとも思う。
でも、彼らがそうであったように、紡ぐ命が途絶えない限り起死回生のチャンスはある。
いつか笑える日が来れば良いと思う。
挿入歌に「ファイト!」が流れる。
暗い歌はやめてくれと野次が飛ぶ。でもその暗い歌に救われている自分もいる。
成田氏が叫ぶようにこの歌を歌う。
満身創痍になりながらも「ファイト!」と叫ぶ。
どんな状況であってもそれしか出来ないのだと思う。
誰かを鼓舞するのか、自分を鼓舞するのかは分からないが頑張るしかないのだと思う。
中島みゆきさんの楽曲に着想を得た本作。
とても残酷で辛辣で、死別はあるは、裏切りはあるわ。転落も後悔も当たり前のように降り注ぐ。
幸せだった時間の方が遥かに短い。
でも温かな気持ちで劇場を後にする事が出来る。
それは1人じゃないから。
あなたがいるから。
何回でも何百回でも私は立ち上がるのだ。
中島みゆきという伝道師がこの国にいて、同じ言語を使う奇跡に感謝したい。
私とあなたが紡ぐ糸が布となり、誰かを包み込めるような世界を夢見ずにはおれない。
小松さんがとんでもない化け方をしてた。
彼女に泣かされるなんて思ってもみなかった。
彼女はいつからこんなにも豊かな女優さんになったのだろうか…彼女をキャスティングした人に感謝したいし、監督にも感謝したい。抜群だった。
松重さんや山口さんもそうだけど、端役に至る全てのキャストが紡ぐ糸がしっかりと繋がっていて、監督の手腕に惚れ惚れする。
そして倍賞さんの「おかえり!」
ありゃ反則だよ…。
その一言に、目頭が熱くなった。
癒しとは言わない。
赦しや慈愛に満ちた作品だった。