「やっぱり、永遠…」気狂いピエロ osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
やっぱり、永遠…
39年ぶりに観た。
あの当時の劣化が酷かったフィルムにも今思えば独特の味わいがあったとも言えなくもないが、やはり綺麗に修復されたレストアは嬉しい。特にハイキーな画面で消えかかってていた字幕はデジタル化で格段に読みやすくなったし。
おそらく、これで本来の光、本来の色彩に限りなく近づいたのだろう。
アンナ・カリーナのアノ瞳やアノ唇に、あの肌の色合い、60年代のアルファ・ロメオに、ベルモンドのペンキ顔、南仏の眩しい太陽!あの海や空の青さ!
今さら言うまでもないが本当に凄い映画を作ったものだ。
もちろんゴダールが本当に凄いのだが、彼の無茶振りなディレクションに見事に反応して駆け抜けて行ったベルモンドやアンナ。
そして、なんと言っても撮影のラウル・クタール!
本物のスタッフとキャストが、然るべきタイミングで、然るべく出会って、然るべき作品が出来上がっていくエポックな素晴らしさ。
こんなの観てしまって、すっかり撮る気なくしてしまった当時の映画作家たちも結構いたんでは?
あるいは、逆に中途半端なフォロワーを世界中で生んでしまったか?
しかしゴダールの映画は本当にゴダールにしか撮れない。
あのコラージュと多彩な引用とギャグで独自のフィクションを疾走していく飄々としたカッコ良さ!
映像作品なのに、どこか音楽作品を体感しているような気分。
つまり一貫して詩的で、しかも数学的。
編集のセンスが本当に突出している。
あのラスト、ダイナマイトを括り付けるシーン、記憶の中では、もっと突然アレよアレよとういう間に一気にテンポ良く爆発にまで至った気がしていたが、記憶なんて結構いい加減なものだ。
もちろん顛末を知っている以上、初めて観た時の衝撃は、もはや体感できようもなかったが、やはり多感な10代の頃に観ていて本当に良かったと思う。
でもなあ。やっぱり字幕は昔の山田宏一版が良かったような…
39年前じゃ殆ど覚えてないが…
最後のランボーの翻訳、
やっぱり、あの爆発の後、
アンナの声で囁いて欲しいのは、
「海と溶けあう太陽が…」
じゃない?
P.S.
後日、今回のパンフレットの寺尾次郎氏の解説を読んだら、ラストのアノ詩、実はあの有名な『地獄の季節』からの引用ではなく、その『地獄の季節』の発表の前に試作されていた『永遠』(確か中原中也が訳していた)からの引用だった。
『地獄の季節』だと
C’est la mer mêlée
Au soleil.
になるが、
実際に引用された『永遠』の方だと
C’est la mer allée
avec le soleil.
となるのであった。
よって、なんと、公開50年以上も経過して、やっと本来の正しい翻訳となっていたようだ。
いやあ… これはチョット驚いた。
殆どの日本人は気付いてなかったのでは?
映画の後半では、何度か「地獄の季節」とフレーズがインサートされてたから、これまでの訳者は皆んな小林秀雄が翻訳していたアレだと思い込んでいた訳だ。
たぶん、おそらく(というか他には考えられないが)敢えてゴダールが、試作であった「la mer allée」の方を選んだのは、きっとアンナとの別れに対する万感の思いだったのかもしれない。
今回のリバイバルの宣伝コピーにあった「息苦しいほどのロマンチスム」とは、まさにこのことだったようだ。
しかし、でもなあ…
やっぱり「la mer mêlée」の方が圧倒的にいいと思うんだよなあ。
ランボーだって結局は、そう思って試作からアップデートさせたんだろうし。
詩それ自体もそうだけど、あのラストにも、ありえないくらい奇跡的にピッタリだったと思う。
まあ、こればっかりは、好みの問題か。
Elle est retrouvée !
— Quoi ? — l’Éternité.
C’est la mer allée
avec le soleil.
Elle est retrouvée !
— Quoi ? — l’Éternité.
C’est la mer mêlée
Au soleil.