「一人の人間の命を預かり、育てるという「ミッション」」朝が来る xmasrose3105さんの映画レビュー(感想・評価)
一人の人間の命を預かり、育てるという「ミッション」
一つ一つの映像が、どれも美しく、監督の美学が結晶化している。美しいけれど、とても血の通った作品です。この夫婦の人間性が高いので、救われます。そして中学生の二人も本当に純粋に好き合っての縁で。
ただ、つらい状況が続きます。人生には理不尽がいろいろあるね。
自然の情景が、人間の表情と、交互に重ねられていく。
重くエゴの泥沼化しそうな内容も、主人公に感情移入するとか、観客という批評家目線でもなく、不思議な立ち位置で観ました。まるでこの夫婦の友人のような気持ちになっていました。
血のつながりがあっても無くても、
誰かの幸せを願う。それが愛ですね。
でもなかなか足りない、世界には愛が。
愛を乞う人の方が多いから。
周りからはムリゲー扱いされても、中学生が一つの命を産んでくれたからこそ、これだけの「愛する側」になる人が生まれたとも言えます。新しい命は愛を運んで来ましたね。可哀想、とかじゃなく。
迷いのないメッセージ。
一つ大きな論点。
養子縁組の大事な条件が「親のどちらかが、育児に専念できる夫婦」。
一人の女性が質問しました。祖父母もいて、時短勤務もできるのですが、と。縁組仲介者(浅田美代子)が「皆さんにとって、仕事が大事なのはすごくよくわかります。でもそこは譲れない条件です、ご理解ください」とシンプルに、笑顔で、1ミリも揺らがず答えるところ。
世の中の流れ的には、産休育休保育園。女性も男性と互角に仕事人としての活躍が謳われる。一度正社員から外れると、正規雇用復帰は難しい現実。男性一人の稼ぎで一家が食べていくのは難しい時代。
でも本作での設定は専業主婦デフォルトのように捉えられなくもない。それもあえて台詞にして、入れている。ここは議論を呼ぶと承知の上でしょう。
河瀬監督が女性でよかった(男性監督だったら、単に、前時代的な偏見とこき下ろされたかも)。
いいのです、監督が世に問いたいことを描く。
その覚悟こそ映画を作る意味。
母という元型も問うています。
さまざまな母たちが出て来ます。
母になれば愛が自然とうまれる、というのは幻想(不都合な真実)。
いいのです、世の母たちは皆知っているのでは。
外ヅラつい整えたくなる自分たちを。葛藤です。一生かけながら、母も子も(父も)、不測の事態に試されながら、本音で関わり、魂を磨いていくのです、どんな時でも愛せるように。
その覚悟が出来ない親もいる。。。
河瀬監督、美しい映像で、ぐいぐい問うて来ましたね。
その思い切りが、心地よかった。