劇場公開日 2019年8月17日

  • 予告編を見る

「平和な時代にも人は殺されている」鉄道運転士の花束 佐分 利信さんの映画レビュー(感想・評価)

平和な時代にも人は殺されている

2021年10月11日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 一介の鉄道運転士にしては刑事や軍人のように眼光の鋭い俳優。なんか見たことある人のような、、、
 「アンダーグラウンド」のラザル・リストフスキーではないか。
 平和な時代のセルビアでも人は死ぬ。いや、殺される。鉄道に。事故で死なせてしまった人数を自慢げに話す運転士仲間たちの描写に批判的な意見が多いが、これらの意見はすべて近代社会に生きる人間すべてに帰ってくるブーメランとなる。
 鉄道に限らず、高速道路や航空機でも毎年のように死者が出ている。我々の社会は死者が出ることを前提としてこのようなインフラ整備に血税を注ぎ込み続け、むしろそれを発展や成長という誇るべき価値と認識しているのだ。
 運転士になってまだ事故に遭っていない若者が、いずれ遭遇することになる事故と殺人におびえている姿は、近代社会に生きる者が、上の価値観に疑問を抱き人命の犠牲を畏れるとまともには生きてはいけないことの現れではなかろうか。
 長い内戦で多くの死者を出したセルビアで、平和が訪れたあとでも人が殺され続けている。いや、我々の生きる世界そのものが、そのように絶えず人命を犠牲にして動き続けている皮肉。
 主人公のシニカルなセリフの多くがこうした世界観から出ているものとして観ると実にすんなりと腑に落ちる映画となる。
 しかし、車両基地らしきところで車両を改造した住居がなんとも魅力的だった。とくに図書室のようになっていた恋人の部屋。

佐分 利信