「ちょっと贔屓が強すぎた?でも見てよかった」ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっと贔屓が強すぎた?でも見てよかった
この映画には青春の葛藤や一瞬の輝きがある。
若さがもたらす残酷なドラマは、その多くが競い合いによって優劣が決まり、美しい敗北者に思わず自分を投影してしまう。
そしてまわりに居る人物のひとりひとりが個性的で、濃いストーリーがたくさん埋まっていそうなバックグラウンドを持つ。
映像の撮り方も非常に効果的。周到な準備や大掛かりなスタントも無く、たぶんギャラの安い俳優ばかり起用されているので、これと言った見どころの無いドラマが延々続くだけのコメディになりかねないところなのに、様々な工夫を凝らして同じ絵面にならないよう考えてある。
スチルの写真だけを見ても、どのシーンか分かるほどに同じ場面が無い。仮に同じ組み合わせの登場人物同士のシーンだとしても、必ず衣装や、メイクやシチュエーションが変わる。そしてそのひとつずつがどれも美しく効果的に彩られ、見惚れてしまう。予告編の、切り取った映像だけを見ても、このカメラがただ者じゃないことは明白だ。
ストーリー自体は非常にシンプルで、卒業の記念パーティに参加して、そこで成長していく主人公たちの物語を一夜の出来事に凝縮して、しかも笑える要素満載で見せてくれる。テイストは『ハングオーバー!』シリーズに近い。極論すれば、ティーンエイジャー版、女の子版ハングオーバーと言っても過言ではない。かと言って、あれほど過剰に事件が起きるわけでは無く、あくまで身の丈に合ったアクシデントが相乗効果で災難となって降りかかってくる造りだ。脚本がよく出来ているので、偶然まかせや、強引な展開が無い。
アメリカの学園コメディに保護者の役でチラッと出てくるリサ・クドローがうれしかった。この人、『フ・レ・ン・ズ』のメインキャスト、フィービー役で10年間出演し続けたベテランの女優さんだ。
LGBTやマイノリティに配慮したのであろうキャスティングも絶妙だ。これほど多様性にあふれた学校が、今や当たり前なのだろうか?誰もが何かしらの背景を抱えていて、特徴のない普通の人種、普通の性癖の人物がいない。主人公のエイミーがそういう人種のことを「1%」みたいな言い方をしているシーンがあったが、もはや白人セレブみたいな分かり易い成功者は、ドラマの登場人物としては特殊な階級として語られる存在ということなのだろう。
真面目にコツコツと勉強して、ようやくエール大に進学できる成功を勝ち取ったエイミーから見て、ただ遊んでいたようにしか見えない「いまが人生のピーク組」の連中も、実はちゃっかりエール大に合格していたという事実を知って、打ちのめされるエイミーが笑える。最後の1日で取り返そうとする動機が単純すぎてそれで映画を一本撮ってしまうあたりのシャレが効いている。
芸能プロダクションの忖度とごり押しキャスティングにスポイルされた日本映画に、こんな面白いコメディが撮れるだろうか?あ、観てないから語る資格無いや。正確に言えば、観たいと思う映画が無いから見てないのだけれど、低予算でも、ここまで面白く出来るアメリカ映画って、やっぱりすごいと思う。