「シジミから見える「人間の一生って何?」」東京干潟 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
シジミから見える「人間の一生って何?」
『東京干潟』は、同じ干潟でシジミを取って日銭を稼ぐホームレスの爺さんのお話です。彼は、玉川土手にブルーシートなどで小屋を作ってそこで多くのネコ達と暮らしています(当然、非合法でしょう)。彼もまた、淡々とした日常を送り、干潟に入っては這い蹲って素手でシジミを取ります。それが築地に出て料亭などに卸されていると云うのですから驚きです。東京にそんな漁場があったんですね。
現在80歳を超えるこのお爺さんが語る人生が戦後の日本史をそのまま反映しています。炭鉱景気に沸く福岡で生まれ、やがて返還前の沖縄に渡り米軍基地で働き、続いて大阪に出て竹中組で働いたのち建築業社社長として独立しバブル景気を迎えます。しかし、作業中の事故で片目を失明したものの、労災申請すると大手からの受注を失うのでそのまま引退してしまったのでした。そして、今や多摩川土手で格差社会の底辺で生きておられるのです。でも、人生の浮沈を呑み込んだ末のその言葉には不思議な魅力があります。「人間の一生って何だろう」なんて事まで考えてしまいます。
狭い干潟に生きる、人間を含めた生態系を力まずに見つめるこの両作、監督の素直な視線がとても魅力的でした。
(2019/10/12 鑑賞)
コメントする