アートのお値段のレビュー・感想・評価
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なんでこんなものにこんな値段がつくの?の答えは
原題はThe Price of Everything、すべてのものの値段。
ものの値段は自然発生するわけではなく、すべて人間がつけるもの。
一体どんな要素が絡まり合って、あんなものやこんなものに普通の人間が一生かかっても稼げないような値がつくのか?その答えが知りたくて観てみたけれど。
売る人買う人集める人飾る人作る人、さまざまな立場でアートに関わっている人たちの話を聞いていると、さまざまな角度からアートの世界が今、どう成り立っているのかが見えてくる。
アーティストが作品を発表し、それが大勢から称賛を受ければ高値がつく、という単純なことだけではないわけで。
ひもじい生活を送りながら、己の中に生まれる衝動のままに作品を作り続けるアーティストがきっと大多数だとすれば、認められて大金をつかむアーティストがほんのひと握りいて、更に「売れるもの」を作り続けられるアーティストもひとつまみくらいいて、そのひとつまみの作品を株だとかワインだとか不動産だとかそういうものと同じように投資の対象として扱うコレクターがいて、競売人やギャラリーが彼らに作品を供給する。
綺麗事を言えば、創作活動と経済は絡み合ってほしくは、ない。
だけど冒頭のナレーションが言うように、アートは金銭によって保護される、というのは少なからず事実であり、誰々がいくらで何を落札したとかいう派手なニュースも、アートの世界を活気づける契機にもなり得るのだ。
誰も見向きもしないものは、廃れて無くなるしかないのだから。
長年数多くの作品を収集してきた老コレクターの言葉、
「多くの人が値段を知っていても、その価値を知らないんだ。」
結局、価値ってなんなんだろう?
この人間が付与する極めて流動的なものに対する、正解はないみたいだけど、一歩引いたところから、どちらかというと我々庶民の目線で、そして極めて純粋で公平な態度でもって、この謎な世界を見せてくれたこの映画に感謝。
わたしはこれからも今まで通り、どこかで好きなものを、眺めたり、さわったり、自分なりのやり方で楽しんでいきたいと思う。
行く末が怖くなるアートの現状とは・・
遅ればせながら「アートのお値段」を観た。
確かに工業製品とは違う。オークションという開かれた場所で、需要が競り合い、価格が変動する。そのベースになるのはオークション会社のプレゼンテーションだったり、アーティスト自身の魅力や生死まで含めた価値観という観念だ。プレゼンテーションや世間のニーズ、トレンドを自身で認知できるアーティストもいるし、気にもかけない、私がアーティストとはそういう人だ、と思ってきたようなアーティストも出てくる。時代のニーズで生まれたのが前者。悪いわけではないけれど、何となく心がざらざらする。この映画の最後に後者が日の目をみるようなシーンがあり、胸をすくような気持ちの良さが沸き上がった。
また、作品が美術館に所蔵されることは名誉だと思っていたし、そうして欲しいと語るアーティストも登場する。が、埋もれて倉庫に葬られる「墓場」とオークショナーは言い切る。企業のロビーに置かれる「ロビーアート」になったらお終い、という発言まで飛び出る。
もう止められないほど巨大になったアート市場において、関わる様々な立場の人の意見は対立し、本当に考えさせられるものだった。どこまで行ってしまうのか、怖くもなった。ただ、ただ、人の心を動かす力のあるアートは、単純に投資対象には考えてほしくないと強く願うだけだ。
最後に私が非常に心を動かされたシーンがある。戦時中ドイツから亡命したユダヤ人の富豪コレクターが自身のコレクションを紹介していくシーン。イタリア人アーティストの少年がひざまずく立体作品が書庫の中央に置かれている。コレクターは言う、これは壁に向けて飾っておくものなんだけど、私はあたかもこの書物を見ているような位置に置く、と。カメラが背後からこの少年像の背中を捉え、なめるように前に回る、少年像の顔が映し出される・・・衝撃が私を襲った。愕然となった。昨今、観に行った「あいちトリエンナーレ」が頭をかすめた。このコレクターの「多くの人が価格を知っていても価値を知らない」という言葉が、なんとも深い。
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