「行く末が怖くなるアートの現状とは・・」アートのお値段 bluewさんの映画レビュー(感想・評価)
行く末が怖くなるアートの現状とは・・
遅ればせながら「アートのお値段」を観た。
確かに工業製品とは違う。オークションという開かれた場所で、需要が競り合い、価格が変動する。そのベースになるのはオークション会社のプレゼンテーションだったり、アーティスト自身の魅力や生死まで含めた価値観という観念だ。プレゼンテーションや世間のニーズ、トレンドを自身で認知できるアーティストもいるし、気にもかけない、私がアーティストとはそういう人だ、と思ってきたようなアーティストも出てくる。時代のニーズで生まれたのが前者。悪いわけではないけれど、何となく心がざらざらする。この映画の最後に後者が日の目をみるようなシーンがあり、胸をすくような気持ちの良さが沸き上がった。
また、作品が美術館に所蔵されることは名誉だと思っていたし、そうして欲しいと語るアーティストも登場する。が、埋もれて倉庫に葬られる「墓場」とオークショナーは言い切る。企業のロビーに置かれる「ロビーアート」になったらお終い、という発言まで飛び出る。
もう止められないほど巨大になったアート市場において、関わる様々な立場の人の意見は対立し、本当に考えさせられるものだった。どこまで行ってしまうのか、怖くもなった。ただ、ただ、人の心を動かす力のあるアートは、単純に投資対象には考えてほしくないと強く願うだけだ。
最後に私が非常に心を動かされたシーンがある。戦時中ドイツから亡命したユダヤ人の富豪コレクターが自身のコレクションを紹介していくシーン。イタリア人アーティストの少年がひざまずく立体作品が書庫の中央に置かれている。コレクターは言う、これは壁に向けて飾っておくものなんだけど、私はあたかもこの書物を見ているような位置に置く、と。カメラが背後からこの少年像の背中を捉え、なめるように前に回る、少年像の顔が映し出される・・・衝撃が私を襲った。愕然となった。昨今、観に行った「あいちトリエンナーレ」が頭をかすめた。このコレクターの「多くの人が価格を知っていても価値を知らない」という言葉が、なんとも深い。