「もし…」ジョナサン ふたつの顔の男 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
もし…
子供の頃、寝ている間に、別の自分がもう一人いて、何かしてたらどうしようと思って怖くて眠れなかったことがある。
その後、相当経ってから、ミッキー・ロークとロバート・デニーロの出ていた「エンゼル・ハート」という映画(原作は、落ちる天使)を観て、やっぱり、こういう事を怖がる人はいるんだと少し安心しながら、映画が怖くて、また、一人で慄いた覚えがある。
解離性同一障害と言うと、殺人事件が伴うビリー・ミリガンだったり、何かSF的だったりすることが多いように思うが、精神科医が自分の患者を例に、アカデミックな視点で書いた自伝的小説「失われた私」は、事実に基づいていて、殺人が起きるわけではないが、サスペンスフルで、古本屋を探せばあるようにも思うので是非読んでもらいたい。
それで、この映画はというと、かなり面白かった。
まず、昼夜で人格が入れ替わること。
僕が子供の頃、思い描いた解離性同一障害がそこにあったからだ。
そして、他の小説や映画とは異なり、人格同士が補完的ではなく、対照的で、お互いの約束事を反故にしながら、それぞれの秘密を膨らませていくことだ。
本当は、この補完的な人格ではない状況は、医学的に、また正確には、解離性同一障害とは呼ばないのかもしれないが、昨今の多重人格ものに食傷気味だったので、ある意味、新鮮だった。
エンディングに向かう場面も秀逸だ。
主たる人格だと思っていたジョナサンが、それまでビデオでしか見ることがなかったジョンに徐々に侵食されていく。
観る側は、ブラックアウトする画面を挟んで、相手に対して発せられるメッセージを聞きながら、これはどっちだ?と混乱していく。
こうしたストーリーにはありがちな人格統合ではなく、一方の人格が他方の人格に駆逐されていくのだ。
最後に、サービス精神だと思うが、本人が名乗って、「ああ」と思わされるが、別にこれは無いままで、観る側に判断は委ねても良いように思った。