劇場公開日 2019年9月20日

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「吉岡里帆のポテンシャル」見えない目撃者 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5吉岡里帆のポテンシャル

2019年9月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

 ストーリーは一本道だが、かかわる刑事たちが物語に従って変化し、主人公との関係性が変わっていく様子は王道の成長物語であり、とても面白く鑑賞できた。ネグレクト、家出少女、その少女を商売にする悪党たち、JKビジネス、SNS、サイコパスなど、現代的なテーマも盛り込まれ、意外に社会的な作品に仕上がっている。

 吉岡里帆が若くして映画の主役に抜擢される理由が解る気がした。黒木華、高畑充希、二階堂ふみなど、活躍する若手女優には必ずその人なりの雰囲気があって、吉岡里帆にも、やはり個性的な雰囲気がある。彼女の場合は透明感のある頑張り屋さんという印象で、芯の強さも感じる。
 本作品のヒロインはまさにそういった雰囲気にぴったりの役柄である。事故で弟を亡くし、自分自身も失明して人生に絶望しているが、警察官を目指した頃のやる気はまだ残っている。警察官の仕事は市民の安全を守るのが第一義だ。大抵の警察官は市民を取り締まるのが仕事だと勘違いしている節があるが、警察学校を卒業したばかりのヒロインには、市民の安全のために頑張るんだという気持ちがあった。
 得てして頑張り屋さんというのは世間の常識に素直に従うタイプであり、時代のパラダイムを拠り所とすることが多い。世間に対して斜に構えていては頑張り屋さんにはなれない。決して斜に構えている人が頑張らないというのではなく、反体制的な人、反抗的な人は、どんなに努力しても頑張っているとは言われないのだ。芸術家は特にそうで、頑張って絵を描いたり小説を書いたりしても、それを頑張っているとは表現されない。一生懸命にデモ行進や演説をしても、それは頑張っているとは言われない。つまり頑張るというのは世の価値観に沿った行動に対してのみ使われる言葉なのである。
 吉岡里帆はまだ頑張り屋さんの雰囲気だが、更に経験を積んでディパレートな雰囲気やデカダンな雰囲気、消え入りそうなか弱さなどの演技もできるようになれば、少し先を行く黒木華に追いつけるかもしれない。
 そうは言っても、現時点で既に演技はかなり上手で、本作品の盲目のヒロインの役は堂に入っていた。目は大きく開いているのに見えていないと観客が納得してしまう表情は、演技の努力と演出の賜物だと思われる。最初から最後までブレずにこの表情を貫くことができた点は、役者としてのポテンシャルの高さを窺わせる。

 総じて作品としての出来はよかったが、主題歌にやや不満がある。シーンの効果音はとてもよかったのに、エンディングで流れる歌は作品との相性が悪くて若干興醒めしてしまった。ちょっぴり残念だ。

耶馬英彦