「映画史に残るクライマックス」燃ゆる女の肖像 t2law0131さんの映画レビュー(感想・評価)
映画史に残るクライマックス
今年のベストワン。さまざまな暗喩に満ちた神話の世界。表層的には肖像画家が貴族令嬢の結婚用肖像画を描く仕事を通じて恋愛に発展、絵の完成とともに別れが来るという時限的な残酷な愛の悲しみ、という本筋。しかしその裏側に監督が仕掛けた裏テーマをどう読み取っていくか。ハリウッド映画ではまず不可能な、鑑賞後に仲間と解釈の意見を戦わせることができる久しぶりの「討論用の映画」でもある(「ミッドサマー」以来かな)。
ともあれ、物語の舞台をどう解釈するかから始まる。一枚の絵の登場で回想に入って、本筋が始まる。メインの物語はすべて過去を回想しているもの、という前提を忘れてはいけない。
画材とともに海を小舟でわたり、絶海の孤島にある貴族の館へ向かう画家。途中、海に落としたキャンパスを冷たい海に飛び込んで拾い上げる彼女のエピソードは何を暗喩しているのだろう。途中語られるオルフェの物語、小間使いの堕胎、村の女性たちの祭での歌声、姉の死の真相、ヒロインの母へのルーティン行動、唯一ラスト間際に食堂で男が食事をしている描写、すべてに意味をもたせているような描き方。現世にいる画家、海を渡ることによって彼岸へ行き、肖像画を描き、そのモデルを愛し、しかし完成とともに再び海を渡って現世へ戻る。そんな解釈をさせる象徴的なシーンが館を去る時にヒロインが画家を呼び止め振り向かせるくだり。あたかもオルフェのクライマックスのように。
スクリーンに映されるのは、静かな平坦このうえないドラマが粛々と進んでいくように見える作品だが、そこには膨大な情報=意味が詰め込まれて、観客を圧倒していく。
その後の出会い、一回目の再会の静かな感動に観客は溜息をもらすだろう。そして二回目にして最後の再会は映画史に残るクライマックスだと断言できる。そこではヒロインのアップが数分間長回しされる。その圧倒的な演技に、ここまで見続けた観客の心を締め付け、息を止めさせ、うちのめす。