「サスペンスの皮を被った社会派映画」バクラウ 地図から消された村 Lymanさんの映画レビュー(感想・評価)
サスペンスの皮を被った社会派映画
村の長老の葬儀の為に故郷バクラウ村へ戻ったテレサ。しかし銃殺事件をきっかけに少しずつ妙な流れになっていくサスペンス映画…なんですが、実際にはブラジルの社会問題がかなり散りばめられた風刺映画に近い作品です。なのでその辺の背景に詳しくなければ「雰囲気だけはあるけど、2時間かけて焦らした割にクライマックスはゴミみたいな映画」で終わってしまうかもしれません
【ネタバレ感想】
正直私はブラジル社会に詳しくなく、後から調べたクチですが一応…。
・地図から消されるバクラウ村
→ 貧富の差が激しいブラジルで、庶民が地主の資本家や政治から無視され続けている問題
・観光客集団
→ 植民地主義の延長。外国の富裕層が国内庶民の命を玩具のように扱う痛烈な風刺
・トニーや既に存在しない警察機関
→ 地元の役人や警察が富裕層に屈して自国民を見捨てる政治構図
・謎の薬
→ 作中では感情を平静に保つ薬として登場。庶民が社会的抑圧に麻痺していく比喩
これらを踏まえて改めてラストを思い返すと、庶民が団結し資本主義を血祭りにあげる分かりやすいエンディングでありながら、「それでいいのか」という問いを観客に投げかけているのも伝わります。
「結局は暴力でしか解決できないのか…」「この後も別の観光客達が現れるんだろうな…」など、確かに考えさせられる部分はありますね
ただ、日本に住むホラー映画好きの一庶民としては、(本当に無礼ながら)ブラジル社会に興味や意見を持ちたくてこの映画を観た訳ではない為、正直な意見としては……つまらなかったです。
やはりエンタメ性が欲しかった。どうせなら資本主義メタファーのあいつらがもっと酷い目に遭ってくれれば楽しめたのですが、物陰から撃たれただけで終了は流石に味気ない。散り方もまさかの全カット(1人だけ顔吹き飛ばしシーンあり)という手抜きで、これではカタルシスも得られません(そういう作品ではないので仕方ないのですが…)。
村の圧勝で終わるにしても、もう少し見せ方に工夫が欲しかったです
はい、所詮私程度が持つ感想はこの程度ですが、確かにブラジル社会について調べたり考えたりはしたので、(広く伝えたい)この映画としては成功なのでしょう。
そもそも私が望む視覚的エンタメ性の無さは、この映画の主旨を考えれば当然とも言えますし、不満を言うのは筋違いかもしれません(現実の暴力性へのメッセージも含んでいるのに、暴力をエンタメにしてしまっては本末転倒ですからね。笑)。
ですが最初から「ブラジルの社会風刺映画です!」と宣伝してくれていれば私だって観なかった訳ですし、正直な感想を言ってもおあいこでしょう。
私にとってはつまらなかったです