「背景を知るだけで評価は変わる」バクラウ 地図から消された村 神社エールさんの映画レビュー(感想・評価)
背景を知るだけで評価は変わる
クレベール・メンドンサ・フィリオ監督、ジュリアーノ・ドルネレス監督の作品は初見。
最初は評価の高さと予告編でのどんなジャンルの作品か伺い知れないごった煮感が気になってたものの、劇場での公開中は機会を逃しようやく観賞。
観終わって思ったのが単純に面白かったりエグいスリラーってより、明らかに南米の社会問題をメタファーにした社会派映画で、そういう問題のついて知っていれば知っているだけより楽しめる作品ってことだった。
最初は自分が南米にそこまで詳しくないことや「バクラウ 地図から消された村」ってタイトル、序盤の不穏な棺桶やUFOの登場など途中まで「未知との遭遇」系の作品かと思っていたんだけど、その後現地の人間を工作員として使っている明らかにアメリカ国籍と見られる掃討を目的とした特殊部隊が出てきたことでフィクションではあれどファンタジーでは無くリアル寄りの話なんだと理解した。
個人的には911以降の映画やハリウッド映画の潮流として、各地の紛争で活躍するアメリカが正義の映画やMCUに代表される様なアメリカのヒーロー映画が=正義って言う常識を今一度問う、非力に思える市民にも力があることを感じさせる作品だった。
劇中のトニー・ジュニアの様にアメリカに与して甘い蜜を啜ろうとするって人間とそういう人間を利用して政治に利用するアメリカって構図は、過去ニカラグアでソモサ政権が似た様なかたちで圧政を行っていた事を「メタルギアソリッド ピースウォーカー」で知っていたので、作中のテーマを過去の歴史的出来事と、それに対抗するマイノリティの人々の物語として理解し易かった。
しかし、観賞後にブラジルについて調べてみると、公開直前の2019年からブラジルに新米政権で、且つ同性愛者の息子でさえ人目を憚らず嫌悪するほど同性愛嫌悪を表明する極右のボルソナロ大統領によるボルソナロ政権が誕生していたことや、そのボルソナロ政権が発足するまでのブラジル国内の流れがあってバクラウの脚本が完成したことを初めて知って、過去にあった話じゃなく今現在起こっているテーマの話なんだと改めて知った。
この作品の感想を見ると"つまらない"とか"退屈"って意見があるけど、個人的には少なくとも近現代で行われていた出来事をバクラウを通して見てるようで、搾取する側や蹂躙する側に対しての胸糞悪さを感じたし、現実の写し鏡として描かれるからこそバラク・オバマ元大統領がベストムービーの一つに挙げていたり、カンヌ国際映画祭審査員賞やニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞に選ばれた実績もあるので、是非作品が描かれた背景も調べてほしいな。
冒頭、これは近未来の出来事であるって説明があるけれどブラジルの内情を知ってしまうと、こういう近未来がやってこないで欲しい、ブラジル国民が新たな大統領を迎えられるようになって欲しいと切に願う。