「【現実】」バクラウ 地図から消された村 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【現実】
近未来の物語?
「みんな狂ってる」というキャプチャーは、確かにそうだと感じる。
でも、よく咀嚼してみて、実は、これは世界のあちこちにある現実で、世界も狂っていると思い始める。
ブラジル。
バクラウ村。
何もない。
仕事は何だろうか。
でも、ネット環境は整えられていて、スマホやパッドはある。
医者もいるにはいる。
怪しい薬もある。
そして、何か組織だろうか、そいつらとの紛争もあるようだ。
水の確保が命題。
選挙活動に来るやつはいる…が、しかし、水の問題は解決しない。
実は、あってもなくても良いような村と思われているのかもしれない。
侵入者。
白人で英語が母国語。
アメリカ人らしい。
「良い警察官だけど、仕事は…」
リーダーらしき男の話すのを聞くと、白人至上主義者で、黒人をいとも簡単に殺す白人警官を思い起こさせる。
ゲーム感覚の殺戮なのか。
「俺は子供を殺さない主義だ」
何を免罪符にしてるのか。
村人を一網打尽にしようと目論んでいるようだが、動機は不明だ。
村人が傭兵のような連中と協力して、侵入者を殲滅するのに、どこかほっとする思いがよぎる。
しかし、この村人達は…本当に、これで良いのだろうか。
社会とは半ば隔絶したような状況で、食料や医薬品はめぐまれたもののようだ。
それでも、何か独自の信念に取り憑かれて変化を求めているようには見えない。
もしかしたら、ブラジルの現状を比喩的に表してるのかとも考えたが、発展途上国の紛争地域の状況そのものではないのかと次第に思えてくる。
宗教の宗派対立、多民族間の民族対立を背景にした発展途上国の紛争は後をたたない。
これといった生活の糧はなく、持ち込まれるスマホなどで表面的に文明化だけはする。
近代的な武装化も同様だろう。
時に対立する相手は、外国軍を送り込んでくることもある。
こちらも傭兵を雇う。
相手の正義、自分達の正義。
決して理解し合えるものではない…ことを前提にしているように感じる。
本当に理解し合えないのだろうか。
歴史学者ハラリ氏の言うように、僕達はフィクションを信じ込んでいるだけなのかもしれないのに。
もしかしたら、本当の敵は別にいるのかもしれないのに。
戦いは絶えない。
地下に閉じ込められようとする侵入者のリーダーらしき男が「また、同じことが繰り返される」と警告する。
事実だろう。
何も変わらない。
同じだ。
これが現実だ。
架空の村を舞台にして、比喩的に世界を表現したのではないのだろうか。
これが僕達の世界を覆う現実なのだと。
カンヌでは、それが評価されたのだと思う。