「労働者の悲哀と家族の想いを届ける」家族を想うとき 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
労働者の悲哀と家族の想いを届ける
見ていて自分と重ね合わせ、身につまされる点が多々あった。
主人公は、宅配ドライバーの男。
と言うのも私、某大手宅配会社で同様の仕事をしているからである。
宅配の仕事って、大変なんです。
その日自分が受け持つコースのほとんどは午前中指定。多ければ個数で言うと100個以上。それを確実に届けなければならないし、遅れは勿論ダメ。
午後は残りの荷物は配達しつつ、今度は顧客先から出す荷物のお預かり。こちらも確実にお預かりしなければならないし、預かり漏れは絶対ダメ。特に会社などから出す重要書類は預かり忘れたら、ドエラい事になる。
配達地域も隅々まで覚えなきゃいけないし、どう効率よく回るか自分でルートを組まなければならない。
劇中で出てきたああいう機器、本当に使ってる。一年ほど前に支給された今使ってる新機種はなかなか使い易いんだけど、その前の機種、メチャクチャ使い難かったんだよね~。会社の現場に対する嫌がらせか!?…と思ったくらい。
お客さんは十人十色。劇中での客はちとステレオタイプだと思った。勿論ムカつく客、面倒な客、ワガママな客は居るが、全員がそうではない。会社もほぼ毎日行く所が多く、個人宅も常連さんが多いので、「どうもです~」「いつもご苦労様~」…と、こんな感じ。お国柄の違いかな…?
さすがに劇中で主人公を“襲った”ような事は無いが…。これもお国柄の違い…?
お客さん以上に面倒なのは寧ろ、会社そのものの方かもしれない。会社は“数字”しか見てない。数字を上げ、数字さえ良ければそれで良し。数字が全て。実際の集配の現場は、数字なんかで表せないほど大変。劇中同様の機器で管理され、イライラするほどの細かいルールも。年に一回、監査も入る。って言うか、コイツら、何が偉いんだ!?
さすがに劇中ほど過酷ではない。劇中では、毎日14時間、週6日、中には14日も休みナシ…あれはブラック企業レベルだ。あの上司も心を鬼にした鋼の精神の持ち主である傍ら、パワハラレベルだ。
一応我が会社も働き方改革でより現場を改善しようとしている、その真っ只中。
去年の超大型台風列島縦断の時一度だけ営業中止になったが、豪雨の日も強風の日も雪の日も。毎夏毎夏炎天下でも。(よく熱中症にならないもんだと自分でも驚き)
会社やそのお偉いさんの言い分も分かる。会社の社会への信頼、社員やその家族、生活の為。
でも、まだまだ現場の声がしっかり届いているとは言い難い。
何も劇中の宅配業のみならず、会社と働く側、働き、家族を養う人皆に響く。
誰もが共感するだろう。
前置きが長くなってしまったが、別に本作は、宅配業の知られざる裏側を描いた作品ではない。
厳しい生活と労働のある家族の物語。
家長のリッキーはマイホーム購入の為、個人事業を始める。それが、フランチャイズの宅配ドライバー。
はたらけば働くほど稼げる理想的な契約に思えたが…、実際は厳しいノルマや罰金などで借金は膨らみ、ろくに休めない日も続く。
妻のアビーもマイカーを売り払い、訪問介護で夫を支える。が、こちらの仕事も過酷で、突然の呼び出しなど時間外労働は当たり前。
忙しい両親に子供たちは不満を募らせる。まだ子供の長女ライザは寂しく、特に問題なのが思春期の長男セブ。何かと父に反発。事ある事に問題を起こす…。
久し振りの家族4人揃っての夕食。
談笑弾むも束の間、アビーが呼び出し。
父も母も出勤が早かったり、帰宅が遅かったり。家族が集う時間は稀。
そうなると当然、家族にすれ違いが…。
思春期の長男はその鬱憤を晴らすかのように、近所に“広告”と自称する落書きをし、学校で喧嘩、さらには万引きで警察にご厄介…。
学校や警察から呼び出されるも、仕事してる身としてはなかなか抜け出せない。
何とか抜け出すも、それは仕事やその日の稼ぎを放り出して。
家で説教してもセブはスマホいじってばかりで反省の色ナシ。それ所か父親に楯突く。
つい、手が出てしまう…。
いや、別に殴ってもいい。生意気で反抗してばかりで口だけのガキは一発殴るのも教育の一つ。それでDVだの体罰だのあーだこーだ言う輩や社会こそヤワ。
だけどそれは、あくまで覚悟の上で。それで分かってくれるか、それとも…。
この家族の場合、後者だった。
仕事も家庭も、何もかも上手くいかない。
何が悪いのだろう…?
何処で間違った…?
父親としては家族の為、家族を犠牲にしてまで働いている。だが、その想いが届かない。
子供としては親に親らしく出でる欲しい。なのに…。その想いが届かない。
一番身近なのに、このもどかしさ。
父親と長男の亀裂は決定的なものに。
支え、間に入る母親も疲れて果て…。
長女は寂しさと哀しさを募らせ…。
この家族は、もう…。
家族が再び絆を取り戻すには、きっかけが必要。
それは、痛々しい事態で。
父が仕事中、暴漢に襲われ大怪我を負う。
病院で診察を待っている時に会社から電話があり、盗まれた荷物と壊された機器と仕事に穴を開けた分として更なる罰金。リッキーが家族の為に有給を取ろうとした時も一蹴し、あのクソ上司、マジでムカつく!
その時、妻が汚い言葉でクソ上司に言い返す。妻はすぐ後悔したが、いら~胸がスカッとした! この時待合室で皆が同じ表情を浮かべ、妻の言葉は労働者たちの心底からの代弁なのだろう。
父親が怪我をした事で、家出していた長男が戻り、父を心配。あれだけ大喧嘩した後なので何だかこっ恥ずかしいけど、これが父親と息子なのだ。
翌朝、父親は怪我をした痛々しい姿のままでこっそり仕事に行く。それを止めようとする長男。続いて妻も。
それでも父は仕事に向かう。
働けど働けど。
ラストシーンの涙は胸打った。
厳しい社会、仕事、生活。しかしそんな中でも、家族の想いは誤配する事無く届いていた。
父親は無事、仕事を終えて家族が待つ家に帰れたろうか。ただただ、そう願う。
名匠ケン・ローチが、前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』後の引退を撤回してまで撮った意欲作。
イギリスのみならず世界中の労働者の悲哀がある限り、社会へ問題や疑問を投げ掛け続ける。
観ていて苦しい映画でした。
社会の歪み、貧富の格差、そんなことは
こう言う映画を観に来る人たちは、
十分理解しているといつも思うんです。
こう言う映画を本当に観て欲しい人は
永田町やホワイトハウスで踏ん反り返ってたり
人の人生の破壊して手に入れた金の海で
溺れながら自身も壊れて行ってる。
どうにかならないものか〜〜
「近大さんがあなたのレビューに「共感」しました」
のメールが来るたびに近大さんは結構以前の作品にも
クリックして下さるので、今度は何を観られたのかな?
ちょっと楽しみだったりします。
いつも有難うございます。
追伸:
「パパは奮闘中」は観られましたか?
流通業のありのままのシリアスな映画です。
近代さん、お仕事のお休みの日にこんな映画を観ると休憩にならないし、逆にどっと疲れが出たしまうんですが(笑)、とてもいい作品ですから強くオススメします。
きりん
近代さんこんにちは
宅配のルートセールスドライバーなんですね‼️
ヤマトかな?
佐川かな?
僕は佐川の協力会社の路線10トンのドライバー、25年目なんですよ。流通業のお仲間発見で すごい嬉しいです(笑)
うちの会社はAmazonもやってますから、この映画は冗談じゃなく本当に辛くて苦しい映画でした。
夏は暖房、冬は冷房。命ギリギリ、心ボロボロの、崖っぷちの労働環境ですからね。
(僕自身も、映画と同じにいっとき車持ち込みの個人事業主でした、失敗すれば地獄です。)
特に佐川は僕ら路線も店内での積み込み作業が毎日5時間ほどかかります。
宅配ドライバーさんたちの苦しみや疲労や、去っていく姿、愚痴をいつもそばで見ています。
だから
配達の方に恥をかかせないように荷物を絶対傷めないで運ぶのが僕の鉄則です。
僕のレビューも覗いて下さいね。
フォローさせて下さい。
😉🖐️
お届け物が半端無く集中する時期に加え、通販も増加の一途で本当に大変ですね。。お疲れの中、細やかなレビュー、近大さんの映画愛なのでしょうね 🎥
主人公と妻が、家族の為に働き続け、疲弊を重ねて行く姿に、やるせない気持ちになった作品でした。