「マティアスをどう見たいか。」マティアス&マキシム kazuyaさんの映画レビュー(感想・評価)
マティアスをどう見たいか。
【あらすじ】
フランス。秋のある日を馴染みの友人たちと過ごす休日。知的で有望な勤め人(弁護士?)であるマティアスと、精神を病んだ母親に苦心し、自身はこれからオーストラリアでの新しい人生を始めようとするマキシムは、友人の妹が自主制作する映画に出演することになる。しかしその内容は、男同士のキスシーンだった。内容に動揺する二人。その一件から胸のそこにある感情から目を反らせなくなっていくが、マキシムの出発の日は近づいてくる。日を追うごとにマティアスのマキシムへの想いは、日常生活や、それまで付き合っていた友人たちへの接し方にも影響が現れ、ついには心無い言葉で彼本人をも傷つけてしまう。しかしその勢いのせいか、二人はお互いの欲望をぶつけ合い、お互いの感情が通じていることを確かめあうが、冷静さを取り戻したマティアスがその場を去る。
マキシムの新天地での仕事のあてはまだない。弁護士であるマティウスの父親の推薦状をもつことで、身持ちの硬さを証明する心算でいた彼であるが、その推薦状はマティアスから一向に渡されない。いよいよ出発というタイミングで直接マティアスの父に電話をすると、代理人から帰ってきた答えは「すでにマティアスに送っている」というものだった。その言葉を聞いて涙するマキシム。スーツケースを持ちドアを開けると、そこに待っていたのはマティアスの姿だった。
【感想】
意図せず同性愛を取り上げた映画が続きました。
この映画は友人と視聴したので、鑑賞後から感想を言い合えたのでそこのあたりも含めてここに書こうと思います。全体を通して、考えてみるとそれも伏線か?みたいなものが多い映画の様な気がします。それと、これは個人的な好みですが、こういった映画の場合、ちょっと映像が汚いくらいのほうが人物の心理描写に集中できるような気がしています。湖で泳ぐ彷徨えるマティアス、綺麗な音楽とともに流れている映像がきっと何か示唆的なものがあるのだと感じさせるのですが、ぬらぬらと動く水と腕の動きに気を取られ、どこか滑稽な印象でした。前半は他にもそう言った細かいところに疑問が浮かびましたが、後半にかけては入り込めた様な気がします。ストーリーがいくつか読める物語かもしれません。それはすごく面白いことですね。
○ラスト、マキシムの涙の意味?
まず、最後のマキシムの涙の意味について。これはかなりこの映画全体の印象を左右するところだと思いますが、僕がはじめに受けた印象は悲しみの涙でした。一度は気持ちが通じたと感じたはずのマティアスですが、金曜日のフライトを日曜にずらして一緒に週末を過ごすという提案は、おそらく実現されていません。その時にマキシムがしたかったのは気持ちを「確かめる」ということだと言っています。それが出来ずに終わった出来事は、これはお互いにですが、拒否と捉えられるものではないでしょうか。それから出発まで疎遠になったマティアスとの関係を考えると、3週間前に渡してあった推薦状を渡さなかったマティアスの行動は、マキシムとの関係を断ち切ろうとする意思と読めるのではないかと思ったのです。推薦状を渡さなかったからと言って、マキシムの出発がなしになるわけでもなし、初めはキスのことがあり距離を置いていただけだったのが、それが愛情であると気づいたころには、すでに婚約者もいるマティアスの中には大事にしたい生活がありすぎて、その状況から「推薦状を渡す」という優しさを彼に見せることが、彼自身怖かったのだと思うのです。距離を置かれていたことを察したマキシムが見せたのが、あの涙ではないかと思いました。
けれど。一緒に鑑賞した友人は、喜びの涙と感じたようです。というのは、推薦状を渡さないことが、彼をフランスにとどまらせることができる方法ではないかと考えていた、あるいは行かせたくないから、推薦状が渡せないでいたというものです。推薦状がないからと言って出発をなしにするとは思えないので、そこは分からないのですが、行かせたくないから、という理由はシンプルですが説得力はあるように思います。やらなくちゃいけないと分かっていても、それが出来ない時があるのが人間なのだと思いますが、それが彼の様な真面目で理性的に描かれた人間がとった感情的な行動だと思うと、またそれがマティアスという人間性の魅力を増すような気がします。マキシムは、マティアスが見せたそのある意味での幼さに、愛情を感じたということでしょうか。
マティアスという人間をどうみたいか、というところに関わってくる様な気がします。もっと大きく言うと、どんなジャンルの映画が好きかにも左右されるのかもしれません。「無常」みたいなものが好きだと、僕の様な見方になるのかもしれないですね…。
なので、最後にマティアスが登場する時のマキシムの感情は、いずれにしてもハッピーなものだとは思いますが、照れ臭そうに立つマティアスの気持ちは、果たしてどんなものでしょうか。
○会話のリアリティ
この映画で印象的なのは、談笑のシーンではないでしょうか。冒頭からの男性数名のいかにも若者ノリの談笑。マダムたちの談笑。同じメンバーですが、パーティの夜のゲームをする若者たち。時にはあまりにもノリがすごすぎて、やや誇張された明るさがあるような瞬間を感じてしまいましたが、会話のテンポ、接続詞などに少し英語を混ぜて話す感じ(これも現地の若者風なのかな?とか考えました)には説得力があったと思います。映画全体がそうですが、語弊のある表現を恐れずに言うと、ときおり自主制作風?のチープなカメラワークを感じる時がありました。しかしそこがまたその場の空気感を再現してくれてるような気がします。