「クールでスタイリッシュ、淫靡なカオス」鵞鳥湖の夜 たぴおかたぴおさんの映画レビュー(感想・評価)
クールでスタイリッシュ、淫靡なカオス
ほぼ闇。
そこにネオンピンクの燐光が差す。
なかば廃墟。
しかし生活臭と汗にまみれる人の群れ。
ほとんど猥雑。
一瞬、スタイリッシュな画力で見得を切る。
すべてが匂うようになまめかしい。
すべてがエロくてキマッテいる。
これぞフィルムノワール(カラード)の極み。
鵞鳥湖のほとりは、開発から取り残された飛び地。
窃盗団とバイク、暴力と圧政、貧困と堕落、酔狂と猥褻のカオス。
夥しい死の片隅に、情愛の欠片。
路上ではチェイス。
廃墟はラビリンス。
湖はエロス。
窓を通した外の雨。
ビニール傘の内側に血しぶき。
テント越しに男女が動く影法師。
鵞鳥湖の小舟の上、「水浴嬢」との淫らな遊びの最中に聞こえるのは、波と櫂のぶつかるくぐもった音。
静寂のなんとも官能的な感応。
汚さの、汚辱一歩手前の色っぽさ。
朽ちたものの、崩落一歩手前の外連味。
錆びたものの、腐蝕一歩手前の渋さ。
あらためて思い知らせてくれる。
ストーリーよりも何よりも優先するそれら光と陰、色彩と音響こそが、映画の醍醐味なのだってことを。
『薄氷の殺人』で鮮烈な印象を残したディアオ・イーナンがまたやってくれた。
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