シチリアーノ 裏切りの美学のレビュー・感想・評価
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まさか今の日本と重ねて観てしまうとは!
いくばくか歴史の知識やシチリアのマフィアについて知っていないと分かりづらいところはあるものの、実話ベースに描かれる内部告発の物語は非常に興味深く、法廷劇となる中盤も、日本ではありえない裁判の姿に驚きつつ、面白さに惹き込まれる。
しかし、なぜベロッキオは80年代から20年くらいのスパンのこの実話を、いま映画にしたのだろう? 正直イタリアの世相に詳しくないのでそこのところはよくわからないのだが、現在とのリンクを考えていたせいか、日本の姿と被るところが多くて空恐ろしくなった。
トンマーゾ・ブシェッタは、沈黙の掟を破り組織を裏切った理由について、「裏切ったのは自分ではない、昔の仁義を失ったボス連中が裏切った」という意味の発言をする。しかし、旧来の価値観を持つマフィアや一部の民衆はブシェッタを恥ずべき裏切り者として蛇蝎の如く嫌う。
自分は今の日本が、政府の犯罪まがいの為政によって劣化したと感じている。が、それに対して批判的な人たちが、情緒的な理由で国の裏切り者でもあるかのように叩かれる姿を目にしてきた。劇中の20親等皆殺しみたいな凄惨な事件は起きていないが、それでもイタリアは裏の権力者である彼らを終身刑にするところまでこぎつけた。社会が機能するとは、こういうことではないか。
そして密告者となったブシェッタが語る大義名分を全肯定せず、正義に目覚めた元マフィアみたいな短絡的な描き方をしなかったことも本作の優れた点だと思っている。
シチリア・・・マフィアに毒された島
2019年(イタリア)81歳の名匠・マルコ・ペロッキオ監督のライフワーク作品。
格調高く形式も整った秀作です。
マフィアを裏切って警察に協力した幹部トンマーゾ・ブシェッタの実録映画です。
時は1980年初頭に始まり、ブシェッタの死ぬ2000年までの生涯を辿ります。
80年代パレルモ。マフィアは血で血を洗う抗争に明け暮れる様は異様だ。
第一部、マフィア組織に嫌気のさしたブシェッタは妻子とブラジルへ渡る
第二部、ブシェッタはブラジルで逮捕されてイタリアの故郷パレルモに移送される。
第三部、ファルコーネ判事の取り調べを受ける過程で、ファルコーネ判事の
マフィア撲滅の情熱に共感を覚える。そして協力者となる。
第四部、裁判・・・実はこの映画で一番面白いのは裁判場面です。
第五部、判決。
イタリアの刑法史を揺るがす大裁判の法廷劇でした。
裁判は公開で、大運動場みたいな会場。
逮捕された200名以上のマフィアが檻に入れられている。
鉄格子を掴みヤジと怒号を飛ばす姿は野性のライオンそのものだ。
一斉にフラッシュを焚くマスコミ。
判事・検事・弁護士の数は何百人だ。
つくづくマフィアとは檻に入って吠える姿が似合う。
凶暴なライオンは人間世界では、放し飼いは許されない!!と言う事だ。
映画はイタリアでは圧倒的な評価を得て、数々の賞に輝く。
この事件の記憶は、ファルコーネ判事の痛ましい事件もあり、イタリア人には
忘れられない、そして忘れてはならない事柄だ。
日本人の私たちにイタリア人の持つ共感や熱意は無理で、
やはり冷めた目で見てしまう。
ブシェッタの警察への協力の本当の真意はどこにあるのか?
彼はマフィアを憎み撲滅を誓った真の英雄的人物だったのか?
(結構な悪事を働いてるらしいし、上手く立ち回ってるようにも見える)
そこを掘り下げてもらったら、もっと感動したと思う。
イタリア人にとっては一大事件だったはず
この映画を観るまでは全く知らなかったシチリアマフィアで実在した人物トンマーゾ・ブシェッタの人生にスポットをあてた映画。
コルレオーネ一派というのが出てきて、彼はそこと仲が悪く、シチリアに残れば命を狙われる気配を感じ、ブラジルに家族と一緒に引っ越すが、残してきた親族がつぎからつぎへと殺されていく。
マフィアの抗争が激しさを増すなか、ブラジルで捕まりイタリアへ強制送還。そして、組織を裏切り、これまでの組織の悪事を告白していくことで、マフィアが崩壊に向かっていく。これは、イタリア人にとっては世紀の一大事件だったんじゃないだろうか?
ところが、そうした一大事件も、マフィアものの代名詞ともいえる裏切りと報復の世界も、劇的にではなく、淡々と描かれていく。たくさん犯罪して人殺ししても、犯罪組織の解体に協力すれば、恩赦で少ない刑期で出所でき、アメリカに移住できる。そんなところもさらっと描かれている。
予備知識がないと誰が誰の敵で、あるいは味方でといったことはなかなか捉えづらい。一番詳しくその人となりや人生を描かれる主人公のブシェッタがいい人に見えてしまうというのがなんとも不思議。
ブシェッタはマフィアだから当然悪い人だけど一部を除いたイタリア人にとってはマフィアを壊滅に追いやった英雄でもあったわけで、批判を恐れず、あえてバリバリの英雄として描いていればもっとエッジがきいて面白かったかもしれません。
ただ、シチリアの人たちにとってはマフィアは仕事をくれるいい存在。マフィアという組織を単純に悪い組織だと描くのは芸がないし、かといっていいものでもない。
ここらへんの相反するところがマフィアや日本のヤクザにも共通する面白さだが、そうしたことを考えさせられることはなかった。
イタリアのヤクザ映画。
イタリア映画はあまり観ないがヤクザ映画が大好きなので観に行った。原題は裏切り者という意味だが、主人公のブシェッタ本人は自分の事を裏切られた裏切り者と呼んでいたらしい。この邦題は適切ではないと思う。素直に”裏切り者”でよかったのではないか?登場人物が多く、おまけにイタリア人の名前が覚えにくいので最初はストーリーを追うのが辛かった。しかし長さを感じさせないテンポの良さと途中からファルコーネ判事との会話、裁判の面白さで最後まで間延びしなかった。予想通りではあるが、日本もイタリアもヤクザは似ている。イタリアの方が殺し方(というか生き方そのもの?)が雑な気はするが。
スカッとするところが皆無の実録物
1980年代のイタリア・シチリア。
マフィア間では麻薬取引から抗争が激化し、新旧世代の入れ替わりの時期でもあった。
一兵卒からのたたき上げトンマーゾ・ブシェッタ(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)は、聖人の祝いの席を利用して抗争の仲裁に努めるが失敗、危険を感じてブラジルへ逃走する。
しかし、イタリアに残った仲間や息子たちが次々に暗殺されていき・・・
といったところから始まる物語で、その後、ブラジルで逮捕、本国へ送還されたブシェッタは、マフィア撲滅を図るファルコーネ判事(ファウスト・ルッソ・アレジ)に協力、仲間内からは「裏切者」の汚名を着せられるが、組織の堕落がブシェッタ自身の誇りを傷つけている義憤から発したものだったことがわかってくる・・・と続きます。
70年代には『ゴッドファーザー』をはじめ数多くのマフィア映画も作られましたが、その中には『コーザ・ノストラ』というものもありました。
コーザ・ノストラとマフィアの区別は個人的には判然としないのですが、ブシェッタにとっては全く違うものであるようで、前者はコーザ・ノストラの意味どおり「我々のため」にある組織であり、血族関係などを中心とした共同体です。
一方、マフィアは、暴力その他犯罪を使って利益を上げる組織であり、そこには共同体意識ではなく、利害関係しかない。
前者には「義」はあるが、後者にはない・・・
つまり、裏切ったのは自分ではなく、他の者全員だ、というのがブシェッタの理論です。
なるほど、任侠映画みたいですね。
ですが、映画は、娯楽映画とは一線を画すつくりで、血みどろの殺し場面や無秩序ともいえるような法廷場面など、娯楽的要素はあるものの、強烈すぎて娯楽ではない。
場面場面が、オペラのような音楽で彩られながらも、鉈でぶった切ったかのような繋ぎ。
その上、時間軸も前後し、出ては殺され、出ては殺されで、誰が誰やら不明。
誰が誰やら不明なのは、個人の恨みつらみの復讐譚を描きたいわけではなく、暴力が渦巻いていた時代そのものを描こうとする意図的なのだろうと思うので、あれは誰?とか思っちゃいけないのだろうね。
ということで、スカッとするようなところが皆無。
いわゆるノワール映画とは違う次元に到達した映画のようで、面白いといえばいえるが、なんだこりゃ?という観客もいるだろう。
それにしても、これが実話なのだから、イタリア畏るべし、恐ろべしい。
裏切ることの重み
イタリアマフィア幹部が大量に逮捕された捜査に協力した幹部の話。
実際にあった話と考えるとゾッとするシーンも。マフィアの抗争は元々金にからんだものだったが、身内や仲間を殺されたりするうちに報復・復讐の色合いが濃くなっていく。ここらへんは日本のヤクザ映画と共通するものがある。
個人的に印象に残ったのは取り調べを行っていた判事が爆弾で殺されるシーン。ストーリー重視の映画だと思っていたので驚いてしまった。その後、判事が死亡したニュースを見てマフィアとその家族たちが歓喜するシーンもなかなか気持ち悪い。
泣けるわけではないがそれなりに考えさせられる。若干長くてダレるのが残念だったけど。
最も・誰が・何を・裏切ったか?
事前には全然チェックしていませんでしたが
たまたま面白そうだったので観賞
感想としては
巨匠らしいクラシカルなカメラワーク
イメージしやすい80年代のイタリアの雰囲気
ややストーリー自体は断片的に感じるものの
最後まで楽しめました
イタリアのシチリア島はパレルモを拠点とした
マフィアの犯罪組織のひとつ「コーザ・ノストラ」で
80年代までボス「ドン・マジーノ」として知られた
トンマーゾ・ブシェッタの半生を追いながら当時のマフィア抗争の
行く末を追うストーリー
当時のマフィアは麻薬取引の暴利をめぐり抗争に明け暮れ
ブシェッタも身の危険を感じブラジルに愛人と共に隠遁しますが
その間に残した子供ら家族をコルレオーネ一家に次々殺害され
自身も麻薬取引容疑で警察に拘束されますが自殺未遂を経て
警察にマフィアの人間関係や罪を打ち明けることで抗争の終息を
図ろうとします
これがマフィアにとって極めて異例なことなのです
マフィアには血の掟というものがあり
厳しい守秘義務や警察組織と付き合わないことなど
堅い取り決めがあります
元々マフィアはこれらの結束を持ってシチリア島へ
やってくるフランスなどからの侵略者から家族を守ろう
という組織だったそうです
ブシェッタはその掟を破ったことになり
裏切り者呼ばわりされることになります
それに対しブシェッタの言い分はそもそも子供が小さい
うちは親に手をかけないなど一定のルールや仁義があった
はずなのに麻薬取引をするようになってそれを捨てた連中は
マフィアに対する裏切り者であるというものでした
ブシェッタ自身麻薬取引で利益を上げていたのだし
身の危険を感じて家族を置いて愛人と姿をくらますなど
ブシェッタの立ち振る舞いもお世辞にも褒められた
ものではなかったでしょうがそこには色々葛藤があり
子供らをパレルモに残したことで殺されてしまった
事に対する後悔は亡くなるまで残っていたようです
このどうしようもないマフィアという沼を
映画の中では描いていますが
組織の特殊性などの説明があまり行われないため
ちんぷんかんぷんに
陥ってしまう人もいるかもしれません
映像は前述の通り主観的な視点
露骨にピント以外をぼかすなど特徴的
車両が高架道路ごと吹き飛ばされる映像は
車内からの視点で映すなどの斬新さもあったり
飽きの来ないものでした
まあわりとストーリー自体は他のマフィア映画やゲーム
などで見聞きするものな感は否めません
こないだ観た追龍もこんなストーリーでした
ラストもなんかゴッドファーザーパート3の
オマージュっぽく感じるとこもありました
ただ雰囲気はバッチリの映画なので
やってるとこ近かったら割とおすすめです
【”真のシチリア人マフィア”は、何故に、判事の取り調べに応じたのか・・・。】
ー1980年から始まったイタリア・シチリアで繰り返されたマフィア同士の大規模抗争を一人の男の生き様を軸に描いた作品。ー
■印象的なシーン
・ブシェッタがブラジル、サンパウロに逃亡していた間に、残された家族や仲間が犯罪組織、”コーザ・ノストラ”の反ブシェッタ派に凄惨に殺戮され、彼自身もイタリアに強制送還された後、マフィア撲滅に取り組むファルコーネ判事と対峙するシーン。
ファルコーネから煙草を勧められ、”口の空いた”煙草と確認し、紫煙を燻らすシーン。
ーブシェッタは”俺は一兵卒だ・・”と呟くが、強烈な存在感、身に纏うある種の男の色気、知性、衣装など思わず画面に引き込まれる。
それは、ファルコーネ判事も同様で、三つ揃えのスーツをビシッと着こなし、ブシェッタに一歩も引けを取っていない・・。-
◆ブシェッタが敵のマフィアだけでなく、身内からも裏切り者と罵られながらも、危険を顧みずにファルコーネ判事に”コーザ・ノストラ”の”秘密”を告白する理由。
ーファルコーネ判事との関係性や夢に出てくる殺された子供たちの姿もその一因ではあるであろう。
が、私は且つて自ら飛び込んだ”コーザ・ノストラ”の”美学”が失われている事に対しての想いが一番の理由ではないかと思う。
”美学:女、子供は殺さない・・。一般市民には手を出さない・・。”
それを如実に表現しているのが、ブシェッタが若き頃から付け狙う男が、常に自らの男の子を抱いて身を守る姿と、ブシェッタも子供を抱いた男を殺さないシーンの幾つかである。
そして、男が息子の結婚式を終えて、夜になった邸内の庭でホッとした顔で、一人椅子に座っている所にブシェッタが現れ、男の胸を打ち抜くラストシーンであろう。-
■少し、残念だったところ
・1980年から晩年のブシェッタの生き様を多数の登場人物を絡ませながら描いているため、ストーリー展開が粗く、唐突に感じるシーンが多かった事であろうか。
<真のシチリアマフィアの美学を貫いたブシェッタの姿が印象深い。
且つての仲間の秘密を漏らしてでも、自らが理想としていた”コーザ・ノストラ”の且つての姿を取り戻そうとしたのだろうか・・。
シチリアの人々の(特に美しき女性たち・・)衣装、意匠も見応えがある作品である。>
邦題おかし。内容を端的に表していないし、裏切りを肯定してコーザ・ノストラ側に付いているみたい。主人公は組織とその実力者たちの方が「裏切った」と信じて証言したのだから。
①全くの白紙状態で観たので、ビスコンティやベルトリッチが撮ったような一族の大河ドラマを予想していたら全く違いましたわ。②最近やたらと多い実話もの。コーザ・ノストラを扱ったイタリア映画はこれまでに何作も撮られているので新味は無いが暴露ものとしての面白さはある。③演出は淀みがなくだれない。上映時間の長さも感じさせない。描写も簡潔で的確である。ただ一人の人物の内面に鋭く迫ったり掘り下げているわけではないので、力作ではあるが深みはない。④法廷場面や刑務所でのイタリアンマフィアのボスたちの振る舞いには呆れ果てるが、人間あれだけ保身と偽善に必死になれるのかと思うと面白くも哀しい。⑤コーザ・ノストラは確かにシチリア島の風土に根差した独特の組織かも知れないが、社会の必要悪とも言える裏社会と表社会との癒着はどの国でもあること。遠くイタリアに限った話ではなく勿論日本でもございますとも。⑥主人公も他のボスたちもやったことは目くそ鼻くそに思えるけれども、映画はラスト、何年も待って標的が初めて一人になったところを撃ち殺すシーンにすることで、主人公はあくまでも堕落する前のコーザ・ノストラのルール(狙った標的以外の家族=特に女子供は巻き込まない)を守った「名誉ある男」であろうとした人間であったことを伝えて終わる。
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