「アルモドバル監督の自伝的作品としても、ある母と息子の物語としても見応えのある一作」ペイン・アンド・グローリー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
アルモドバル監督の自伝的作品としても、ある母と息子の物語としても見応えのある一作
スペインを代表する映画監督、ペドロ・アルモドバル監督は、その独特の色彩・映像美と時に意表を突いた物語展開が多くの観客を引き付けていますが、同時に自らの母について映画を通じて繰り返し語ってきた作家でもあります。
『オール・アバウト・マイ・マザー』(1998)などの既存作品と同様、本作も一応アルモドバル監督が創造した舞台、登場人物が織りなす物語なのですが、主人公サルバドール(アントニオ・バンデラス)が半ば引退した高名な映画監督だったりと、明らかにアルモドバル監督の自伝的色合いの濃い作品です。
また本作の実質的なもう一人の主人公、サルバドールの母ハシンタ(ペネロペ・クルス/フリエタ・セラーノ)は、自らの人生を切り拓いていく強さのある人物として登場しており、これまでのアルモドバル作品に登場した女性像と重なり合う部分が多く、彼の作家像についての一つの答え合わせとなっている感がありました。
もちろんこれまでアルモドバル作品に触れる機会がなくとも、単体の映画作品として見ごたえのある作品です。
サルバドールの目を通じて描くハシンタの物語となっている点が本作の一つの要点で、母の強さに惹かれ、良い息子であろうとしたサルバドールが老いた母から投げかけられたある言葉に対して見せる表情。その驚きと苦しみの感情は、観客にも直接突き刺さってきます。
この鮮烈な感情表現は、長年アルモドバル監督と創作を共にしてきたアントニオ・バンデラスだからこそ成し得た演技でしょう!
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