「アルモドバルの集大成」ペイン・アンド・グローリー バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
アルモドバルの集大成
『神経衰弱ぎりぎりの女たち』『欲望の法則』など多数のペドロ・アルモドバル監督作品に出演してきたアントニオ・バンテラスが今回は、監督の分身としての役割を果たしている。
『欲望の法則』と『バッド・エデュケーション』では、主人公が映画監督という設定であったが、今回も映画館ということもあり、今作を3部作の3章目とアルモドバルは語る。
同一のキャラクターではないが、描いた欲望と映画の関係性や同性愛を描いていることに関しては、共通しているのだが、今作はバンデラスの演じるサルバドールのビジュアルから、明らかにアルモドバル自身の投影であることが色濃く出ている。
家の家具や絵画、靴や洋服もアルモドバルの私物を使用しており、髪型も似せていて、感覚的ではなく視覚的に仕上げてきていることから、半自伝的意識が強いものと思われる。
これまでの作品でも、同性愛、映画愛、そして母への想いといったアルモドバル自身の体験や感情を投影してきており、それがアルモドバルの作家性でもあるが、今作では、よりそれらを感じられる構成となっており、てんこ盛りの集大成とも言える作品だ。
ここまでやってしまって、次回どうするのだろうかという不安もあるが、『ジュリエッタ』や『アイム・ソー・エキサイテッド!』などといった、少し路線の違う映画も制作しているだけに、アルモドバルは70歳ではあるが可能性と将来性がいつまで経っても感じさせてくれるフレッシュな監督であるから、心配はないだろう。
アルモドバル作品の特徴は何といっても、芸術的なセンスと色彩感であり、今回もアルモドバルが好きな赤が全面に使われている。所々にベアブリックが置いてあることにも注目!
色を乱発して画面を散らかすのではなく、印象的なシーンに赤を使うことで記憶に残るという匠な色使いは見事であり、芸術色が強いといわれる要因のひとつである。小道具として制作された紙袋に描かれた少年時代のサルバドールの絵がいちいち素晴らしい。
何故、ここまで全編を様々なスタイルのアートで包むことができるのだろうか…