「事実を超えた?「ギンガ・萬堂事件」」罪の声 ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)
事実を超えた?「ギンガ・萬堂事件」
この作品は、「グリコ・森永事件」をフィクションで再構築して、その実像を示したという面と、事件に関わった、あるいは巻き込まれた人々の人間模様という二つの面で楽しむことができる。また、登場人物として、事件記者の阿久津と犯人側の家族の曽根の関わり方もとても興味深く描いてあった。事件の構図については、当時の社会状況なども反映させながら、なるほどなと一定の説得力はある。学生運動の闘士が社会への抵抗と嘲りで「愉快犯」めいたことをしたり、本当の目的が、会社の信用を落として株価操作で儲ける事だったりというのは少し当たっているかもしれない。現実の事件が、社会に恐怖を与えるだけで、犯行の意図が分からないまま終わってしまったのも、犯人集団の内部事情でうまく説明されていたように思う。事件のフィクション化は映像的にも成功していると言えよう。
阿久津と曽根の関りは、小栗旬と星野源の本気の演技がとても見ごたえあった。二人の活躍がこの映画のすべてと言って過言ではないだろう。ただ、二人の役割が少々説明臭く感じたのも事実だ。阿久津は報道の姿勢・あり方に疑問を持っていたが、過去の未解決事件に向き合うことで、報道の使命みたいなものに気づく。曽根は知らずに犯罪に協力したことに苦しむが、同じような境遇の姉弟に心を寄せることにより救われるみたいな形になっている。確かにそれでストーリーとしては成立しているが、製作者の意図したほどには、その思いは映画からは伝わってこなかったなあ、という感じである。
事件の展開を描くのはとても優れているが、人間を描くのは今一つという感じの映画であった。
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