「静かな良作。」あのこは貴族 ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
静かな良作。
静かな作品ながらずっと不思議な緊張感があり、特に主演2人からは目が離せず、ずっと惹き込まれて観た。
私たちは、あらゆるところで私たちを取り巻く見えない「格差」と、「こうあるべき」「こうあらねば」といった「呪い」の中を生きている。
生まれや家柄。学歴や経歴、収入。
既婚か未婚か。結婚相手の学歴や収入。
子どもがいるかいないか。
年齢やライフステージに合わせて変わっていく周囲からの勝手な期待や常識を押し付けられながら。
でも本作で美紀が言っていたように、誰もが自分の置かれた世界の中で最高の日があったり、ままならなくて打ちひしがれたりする日があったりする。
宇垣美里さんの言葉を借りるなら「私には私の地獄がある」だ。
観終わった時は女性の「呪い」がリアルでホラーだったなあと思ったけど、でもよく考えたらこれって女性に限らないよなあ。
本作では幸一郎がおそらく本人の望んだ形ではない人生を生きていたけれど、男性も同じなんだろうな。
とはいえ作中の逸子の言葉は印象的だった。
私たち女って敵対関係になるようになってるじゃないですか(おおよそこんな意味だったと記憶)。って言葉。
この逸子の言葉へのアンサーとして、男性とか家庭とかそういうものから解放されたら、個人としての女性同士ってうまく笑い合えるんじゃないだろうか、ということを本作は見せてくれてたような気がする。
ラストの華子と逸子や、美紀と里英のように。
美紀たちから見たら、レストランで4500円のお茶を当然のように飲んでいた「あのこは貴族」なんだろうし、生活水準の違いではわかり合えないかもしれない。
でも気持ちはある部分ではちゃんと通じ合えるんじゃないだろうか。
ベランダでアイスを食べながら話していた時の、華子と美紀のように。
この映画の彼女たちを見た今、物事や誰かの一面を切り取って簡単に相手に対して線引きをしないニュートラルさはちゃんと持っていたいなと思う。
ストーリー以外の部分では、本作は東京の風景が綺麗で哀しくてでも優しくて素敵だった。
あと富山出身としては、美紀の地元が出た時は「魚津(富山県)だー!」とテンション上がったけど、あの田舎の寂しくてガサツな感じも、「アピタ行く?」のセリフも、なんというとてもわかってしまって少し切なかった(苦笑)。
あと門脇麦ちゃんと水原希子ちゃんは、前情報見た時は「役柄のイメージ逆じゃない?」と思ったけど、ピタリとハマっていたし、2人ともとても良かった。