「「カメ止め」のインパクトはないが、これが"たくらんだ通り"」イソップの思うツボ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
「カメ止め」のインパクトはないが、これが"たくらんだ通り"
「イソップの思うつぼ」。
予算300万円のインディーズ映画ながら、30億円を超える大ヒットを記録した異色のゾンビ映画「カメラを止めるな!」(2018)の上田慎一郎監督と助監督の中泉裕矢、スチル担当の浅沼直也の3人が共同監督を務めた新作である。
製作は埼玉県SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザで、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019」のオープニング上映された。「カメ止め」同様、アスミック・エースが全国配給を担当する。
ちなみに上田監督単独での正式な長編第2弾は、10月18日公開の「スペシャルアクターズ」になる。そっちが本命だろう。
「イソップの思うつぼ」は、上田監督の脚本に、中泉・浅沼両監督が共同脚本クレジットされている。
イソップ寓話の「ウサギとカメ」をモチーフとした登場人物、兎草家(ウサギ)と亀田家(カメ)、そして戌井家(イヌ)の家族が出てくる。
序盤は、非常勤講師に恋する女子大生のキャンパスライフを描いているだけかと思わせるが、カメラがハレーションを起こし、被写体の輪郭が逆光ぎみに白くボヤけてしまっていて、"何か変だ?"とイラつく(あとから意図は分かったが)。
そうこうしているうちに、今回も観客は上田マジックにまんまと騙されていることに気づくことになる。"思うつぼ"="たくらんだ通り"の意である。
本作は時系列が前後するように構成されていて、"恋愛モノ"から"不倫"、"リンチ"、"身代金誘拐"、"復讐"、"殺人"など、いつの間にか人間性を問うサスペンス映画にすり変わっていく。
そして二重三重に仕掛けられたトリックのタネ明かしがエンディングに向けて行われる。これは見てのお楽しみ。
「カメ止め」のような奇跡的なインパクトはない。作りもインディーズの延長線上で。それでも上田監督は、まだまだ映画表現でエンターテイメントは拡げることができることを現実的に実証してくれる。
キャスティングも、完全にインディーズ級の無名俳優ばかりだった「カメ止め」に比べ、若干ランクアップしている。
(2019/8/17/TOHOシネマズ日比谷/シネスコ)