「後出しジャンケン」イソップの思うツボ いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
後出しジャンケン
鑑賞後にネットで調べてみると、それぞれの登場人物の3家族に各監督が割り振られ、それぞれの家族のシーン毎に割り振られた監督が演出担当するという手法の様である。確かにその方式はかなりアバンギャルドであること、そして余程この3人の監督は仲が良く、映画観みたいなものにシンパシーを感じ合っているのだろうと想像する。というか、一本の作品制作に於いて、そんな共同作業が成り立つのか、それでは映画学校に於ける“課題”みたいな、プロならば“レクリエーション”又は“アカデミック”的な色彩の濃い実験作品なのだと合点したのである。それほど、今作品、正直言って面白くない内容である。“カメ止め”の実績のみで鑑賞したのだが、上記の建付けを初めから分っていたら意欲が変わったかも知れない、そう思わせる残念な作品なのである。
3家族の内の父と娘だけのグループはストーリー上、ハッキリ言って必要ない。狂言回しとしての機能を与えられているのかどうかも怪しい立ち位置だし、イソップ童話に準えると「隣の芝は青く見え、又、欲張ると結局損をする」話にインスパイアされていない。ウサギとカメの話はまぁまぁ、対立構造という分かり易い図式の中で、都合の良い復讐劇を繰広げるという形でギリギリ成立させようと努力は窺えるが、まぁ、なにせ展開が“実は~”のプレイバック要素のバーゲンセール状態で、さっぱり共感性が持てず、一体何をみせられているのか茫然自失状態である。勿論、カタルシスを演出しない作品そのものは寧ろ好きなのだが、ならばカタストロフをラストに持って行けばいいのに、変な希望みたいなものを抱かせてラストに収め、そしてスタッフロール後の、意味ありげな亀の歩く姿のショットに何だか鼻白むことしきりである。何を訴えたいのかのテーマ性も全然みえない、そりゃそうだ、実験作品なんだろうから・・・
展開が雑、出演者が大根、折角の川瀬陽太をこんなステレオタイプの役にしか起用させていない(主演で起用すべきレベルなのに)、視覚効果もその実験の一つに組み入れたのだろうが、そこになんの思い入れも演出できていないし、本当に誠実に映画を作っているのか訝しさしか残らない感想である。エンタメ性を強調した監督というと矢口史靖を思い当たるが、一体今作品のそれぞれの監督はどの方向制なのか理解に苦しむ内容であった。先ずは演技の出来る俳優を選んで欲しいと切に願うばかりである。