「ITリテラシーの格差」スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
ITリテラシーの格差
白石麻衣は身体がゴツくて逞しい。千葉雄大が童顔で細いから、役が逆でもよかったくらいだ。細くて弱々しい加賀谷が強気で逞しい美乃里を守るというのは、小学校の学芸会みたいな違和感がある。
物語を動かすのは成田凌が演じた前作の犯人で未決の留置場に入れられている浦野である。成田凌の芝居はエキセントリックぶりを発揮して結構よかった。井浦新や音尾琢真、ズンの飯尾などが典型的な人物を典型的な演技で演じていて、物語自体はとてもわかりやすい。わかりやすすぎて大方の観客には犯人の目星がついたのではないかと思う。
プロローグからエンディングまでが割と一本道のドラマなので、普段映画を観たり小説を読んだりすることがなくて物語に慣れていない人にも受け入れやすい作品だと思う。逆に言えば、物語に慣れている観客には少し物足りないかもしれない。
前作で北川景子が演じた稲葉麻美のか細くて嫋やかな雰囲気がとてもよかっただけに、女らしさと優しさに欠ける今回のヒロインには少し不満が残る。乃木坂46と白石麻衣のファンの方には申し訳ないが、女優としてはまだこれからである。
前作にも感じた通信の秘密の脆弱さは、今作でも感じた。最近は銀行の画面と区別がつかない画面が現れてパスワードを入力させようとしたりするそうなので、情報技術にもシステムにも疎い当方のようなアプリユーザーは格好のカモだろう。便利がいいので映画の予約もレストランの予約もスマホで済ましているが、本当は落とし穴がいっぱいの隘路を、たまたま落ちずに来ただけの気がする。
海外のホテルに行くとWifiの接続先とパスワードを渡されるが、怖いなと思いながら使っている。海外でスマホ決済は避けるようにしているし、カードで決済するのは航空券とホテルくらいだ。街なかでは常に現金で決済する。海外でスキミングされたらおしまいだと思っている。
インターネットが進んだおかげで、リテラシーの格差も広がった。日本の役所もインターネットで手続きするように呼びかけている。イギリス映画「わたしはダニエル・ブレイク」では、傷病給付も失業給付もインターネットで手続きするように言われ、長年大工として働いてきたダニエルはパソコンを持っていないし、そもそも使う技量もないから、手続きすらできない。
ネットやシステムでは一部のリテラシーがとても高い人と、一般ユーザーと、ほとんど使えない人の3種類に分かれそうだ。今後更に進んで、日本でも行政手続きはインターネットで行なうことが必須になるのだろうが、ネットの環境も道路や鉄道と同じで、誰でも平等に利用できなければならない筈だ。
本作品を観てITのリテラシーが低い人を嗤うのではなく、行政がリテラシーの格差を埋める役割を担わなければならないことを悟るべきだ。田舎で畑を耕しているおじいちゃん、おばあちゃんが不利になるような世の中はやっぱりおかしいと思う。