劇場公開日 2020年1月24日

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「作家の想いという執念」9人の翻訳家 囚われたベストセラー R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 作家の想いという執念

2025年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

この作品
小説というのが題材ということもあり、非常に複雑かつミステリアスだ。
どうでもいいが、この作品を見る前にクソ暑い中、庭の草むしりを1時間以上していたので、途中で寝てしまった。
頭の中の整理が必要になり、まずあらすじというのか顛末から整理したい。
時系列で整理する。
この物語は、アレックスが書いた小説『デュダリス』を、古本屋のジョルジュがその才能を見抜き、出版を提案するところから始まる。
しかしアレックスは、「自分の名前ではなく、ジョルジュの作品としてなら出版してもいい」と言い出す。
こうして、オスカル・ブラックというペンネームのもと、ジョルジュが著者ということにして出版されることになった。
その後、アングストローム社のエリックが版権を獲得し第1作が刊行されるが、内容は大幅に書き換えられており、アレックスの意図とはかけ離れたものになっていた。
それでも第2作は大ヒットし、シリーズは大成功を収める。
そして第3作の世界同時発売が決定。
ここでアレックスは翻訳家の一人としてチームに紛れ込む。
これが、エリックに対する復讐劇の始まりでありこの物語の主軸となっている。
物語の冒頭に描かれる火災は、エリックが「価値観の違い」を理由にジョルジュを殺害し、証拠隠滅のために火を放った事件。
この価値観の違いこそ、第3部を発表するしないの意見の相違。
アレックスはこの事実を利用し、巧妙な罠を仕掛ける。
彼は8000万ユーロをエリックの口座から奪い、さらにその金を再びエリックの口座に戻すことで、すべての罪をエリックに着せることに成功する。
これがこの物語の顛末
さて、
この作品に描かれてないこと。
それこそが「デュダリス」という名の小説の内容
このデュタリスの内容そのものの解釈が群像となっていて、人のものの見方の違いとなっている点が面白い。
翻訳家たちが考えたこの小説
・カテリーナ(ロシア語翻訳者)
『デダリュス』のヒロイン「レベッカ」に心酔しており、コスプレまでして翻訳作業に臨むほど彼女にとっては単なる仕事ではなく、物語の世界に没入するほどの魅力があったことがわかる。
・ダリオ(イタリア語翻訳者)
「オスカル・ブラックに会いたい」と語っており、物語の背後にある作者の存在に強い関心を持っていた。
つまり、作品そのものだけでなく、その創作者にも魅力を感じていたと思う。
・コンスタンティノス(ギリシャ語翻訳者)
「金のため」と割り切っているような発言をしており、物語への情熱よりも仕事としての側面を重視していた人物。
そして、
・アレックス(英語翻訳者)
最年少でありながら、翻訳作業初日から昼寝をするなど余裕のある態度を見せていた。
彼こそが原作者であり、他の翻訳家たちとは異なる視点で物語を見ていたことが後に明かされる。
アレックスは物語を単なるミステリーとしてではなく、「喪失と後悔の物語」として捉えていいた。
彼はロシア語翻訳者のカテリーナと同じく、物語のヒロイン「レベッカ」に強く共感しており、彼女の苦しみや孤独を通して、物語の本質を理解しようとしていた。
これは、アレックス自身が経験した「創作の裏切り」や「ジョルジュの死」という喪失と重なっており、彼にとって『デダリュス』は自分の内面を投影した作品でもあったはずだ。
アレックスは、エリックによって歪められた『デダリュス』の出版に対して強い怒りを抱いており、物語の本来の意味を取り戻すために、翻訳家として潜入し、復讐劇を仕掛けた。
彼が『デダリュス』で見ていたものは、「真実の物語」であり、それを守る、実行するためにやってきたのだろう。
このデュダリスという言葉を調べると、ギリシャ神話の「ダイダロス(Daedalus)」に由来しているようだ。
その意味は、象徴的であり、迷宮ラビリンスを設計し、イカロスの父としても知られている。
自ら作った迷宮に囚われた後、翼を作って空を飛び脱出するという逸話があり、これらを鑑みると、この物語の顛末そのものと言えるかもしれない。
そして、ローズマリー
彼女はエリックの忠実な秘書であり、編集者の仕事に満足していた、と考えていた。
しかし、アレックスの部屋に侵入してそこで見た写真
この写真にはエリックから怒鳴られている彼女の姿があった。
それはブックフェアの舞台袖での出来事で、ローズマリーにとっては日常的だったかもしれないが、「外から見た自分の姿」を突きつけられたことで、彼女の中で何かが崩れた瞬間だったのだろう。
ローズマリーは「自分がどれだけエリックに支配され、軽んじられてきたか」に気づく。
つまり、写真はアレックスが仕掛けた心理的な罠であり、ローズマリーの心を動かす決定的なトリガーだった。
なかなか凄すぎる。
デュダリスにも、ローズマリーの群像が登場するのだろうか?
この恐ろしい小説は、表面上の人間模様と裏に隠された意図や葛藤や矛盾などが入り混じるのだろう。
第1作で裏切られたのが本筋だったのだろうか?
それに魅了された人々が第2作を求め、修正したにも拘らずまた似たように裏切られる。
そして書き上げた3部作には、悪人エリック ただ一人に犯人が描かれていたのだろう。
そしてそれを演出した人物こそ、作家(ペンネーム)オスカル・ブラック=アレックスであり、デュダリスの主人公なのかもしれない。
なかなか凄い作品だった。

R41
talismanさんのコメント
2025年7月27日

丁寧なレビューを拝読して、すっかり忘れていたことがわかりました。ありがとうございます!小説『レベッカ』の主人公=語り手は名前がなく、他の登場人物に本人の名前で呼ばれることもなく、ずっと「私= I」だったことを思い出しました

talisman
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