「犯人の本末転倒な動機や傲慢さに感情移入できなかった」9人の翻訳家 囚われたベストセラー Fate number.9さんの映画レビュー(感想・評価)
犯人の本末転倒な動機や傲慢さに感情移入できなかった
他の方の指摘にもありますが、私も冒頭のシーンは火事だけではなく、点と点を繋げる「伏線」として殺人事件を描いておくべきだったと思います。真相にカタルシスが感じられないのは、伏線が機能していないからではないでしょうか?そもそも犯人の動機に連なる「文学に対する敬意」が出版社に足りないとしても、「商業主義に塗れるよりも売れない方がマシだ」なんて言う、青臭い考えには感情移入できませんでした。
あの社長にしても翻訳家を監禁しているとは言え、単に原稿の発売前の流出を恐れての事ですし、本当に死ぬまで働かせていたり、報酬を払わない訳ではないんですし、本人たちも同意の下です。何より社長の販売戦略によって世界的な大ベストセラーにしたのですから、いきなり作家(ジジイ)に「文学に敬意の無いお前の会社とはバイバイ」なんて言われたら、そりゃキレるでしょ(笑)。そんなに金儲けしたくなかったのなら、最初から無料公開にしとけよって話ですよ。二冊も出しといて今さら?矛盾してますよね。一冊目がヒットした地点で契約終了を宣告していればまだしも、三作目が大々的に宣伝されてから言うなんてそりゃ非常識すぎるでしょ。下手したら契約不履行か何かで逆に訴えられたり、ファンの期待を裏切ったりで、批判するつもりが逆に作家の傲慢さを批判されたりして、作品自体の評価を落としかねない。そんな事になったらそれこそ本末転倒では?
そもそも主人公が偏屈で融通が利かないから起こった悲劇であり、大好きなジイさんが殺されたのも、ある意味、自業自得。今まで通りにやってたら誰ひとり不幸にならなかったのにと思うと、やはりラストも「半分以上はお前の自己中心的な傲慢さのせいだぞ」と思えて釈然としませんでしたね。