「面白かったけど、無駄に複雑にし過ぎでは?」9人の翻訳家 囚われたベストセラー といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
面白かったけど、無駄に複雑にし過ぎでは?
上映当時から気になっていたのですが、地元の映画館では上映されていなかったため、レンタルが開始されたこのタイミングでの鑑賞です。
予告映像などは事前に視聴していたので、おおまかなストーリーは知っている状態での鑑賞でした。
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世界的に爆発的なヒットを記録している小説「デダリュス」。シリーズの完結編が全世界同時発売されるにあたって、出版社社長のアングストロームは情報漏洩を避けるために各国の翻訳家を通信の途絶された人里離れた洋館の地下室に隔離して翻訳させるという方法を思いついた。9人の翻訳家が集められ、1日に20ページの原稿を渡される形で翻訳作業が進められていたが、ある日アングストロームの元に「ネット上に小説冒頭10ページを公開した。24時間以内に500万ユーロ払わなければ更に100ページを公開する」という脅迫メールが届き、事態は一変するのであった。
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犯人は通信の途絶された密閉空間である洋館の地下から、どのようにして小説を外部に持ち出したのか。犯人は誰なのか。
ジャンルはミステリー映画ですね。序盤は「誰が犯人か」という感じにストーリーが進むのですが、中盤くらいで普通に犯人が判明するので、後半からは犯人がどのように犯行に及んだか、何故そのような犯行を行ったのか、そして犯人と強欲な出版社社長であるアングストロームとの対決が描かれ、最後には衝撃の大どんでん返しが待ち受けています。
作風はものすごく私好みです。実話をモチーフにした「翻訳家の隔離」というシチュエーションも良いですし、各国の翻訳家たちが個性豊かで知的で魅力的ですし、「どんでん返し」が大好物な私はラストの衝撃的な展開も結構好きでした。
しかしながら、結構文句をつけたい部分も多いです。特に演出面とストーリー面。
中盤以降、「実は犯人はこういうことやってました」とか、「犯人の過去にこういうことがありました」という過去の回想シーンが何度も登場するのですが、そのシーンがあまりにも唐突すぎるのです。多くの映画では、過去の回想シーンを表現するときに「画面の色調を変える」「画面端のピントがぼやける」「登場人物の声に軽いエフェクトをかける」「回想シーンに入る前にカットインを入れる」などなど、すぐに「ここは回想シーンですよ」と分かり易いようにする演出を見掛けますが、この映画にはそのような演出は一切無く、あまりに唐突なタイミングで回想シーンに突入します。そのためちゃんと観ていても回想シーンに入っていることに気がつかず、後になって「あ、これ回想なんだ」と気付くことが多かったです。映画後半は時系列が行ったり来たりでごちゃごちゃになるので、回想シーンは何かしらの演出を入れて欲しかったと思います。
また、ストーリー面も、後半はどんでん返しがいくつかあり「実はこうでした」「実はこうでした」という展開の繰り返しになるので無駄に複雑なストーリーになってしまっていたように感じます(これは私の読解力も問題あると思いますが)。昔観た「ピエロがお前を嘲笑う」という映画のレビューでも確か同じことを言った気がしますが、どんでん返しが何度もあると無駄に話が複雑になるし驚きもだんだん薄れてくるので、一つの「大どんでん返し」をぶつけてくれた方が面白かったように思います。
最後の不満点として、犯人の目的やら動機やら犯行の手段が全て分かった後でもイマイチ腑に落ちない部分が多いことが挙げられます。「ここまでやる必要はなかったんじゃないか」「あの行動は何の意味があったのだろうか」「この登場人物の行動はオーバー過ぎやしないか」等々、ミステリー作品を観終わった時に感じるスッキリとした「納得感」がこの作品は薄いように感じます。「登場人物たちの言動が物語を作る」のではなく、「登場人物たちが物語を作るために動かされている」ように感じてしまったのです。何だか消化不良に感じてしまって、そこがちょっと残念でした。
上記のような不満点もありつつ、しかしミステリーとしては非常にクオリティの高い作品でしたので、ミステリー好きの方には是非見て欲しい作品です。オススメです!