劇場公開日 2020年1月24日

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「合計11ヶ国語が飛び交う痛快マルチリンガルミステリー」9人の翻訳家 囚われたベストセラー よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0合計11ヶ国語が飛び交う痛快マルチリンガルミステリー

2020年6月28日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

世界的のベストセラーとなったミステリー小説『デダリュス』、世界中のミステリーファンが待つ三部作の完結編『死にたくなかった男』の出版を高らかと宣言したオーナーのアングストローム。違法コピーの流出を恐れる彼は厳格な管理体制で英語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ギリシャ語、デンマーク語、スウェーデン語、ロシア語、中国語それぞれの言語翻訳を行うべく9人の翻訳家がフランス郊外の洋館に召集する。外部との接触を一切断たれ洋館から一歩も出られない厳重警備の中毎日20 ページずつ配付される原稿の翻訳が淡々と進められていたある日の夜、アングストロームのもとに一通のメールが届く。そこには「冒頭の10ページをネット公開した。24時間以内に500万ユーロを支払わなければ次の100ページを公開する。もしも要求を拒めば全ページを公開する」という脅迫だった。小説の内容を知っているのは正体が一切明かされない謎の作者オスカル・ブラックとアングストローム、そして9人の翻訳家達だけ。翻訳作業は中断されアングストロームは9人のうちの誰かの犯行と睨み犯人探しを始めるが・・・というマルチリンガル密室ミステリー。

オルガ・キュリレンコ、ランベール・ウィルソン他ワールドワイドなキャストを取り揃えて作品の風格を整えつつ、密室での丁々発止の駆け引き、事件後と思しきカットや回送シーンなどを交えて時制をかき乱しながら物語を進行、随所に文学トリビアを振りまきながらサスペンスを加速させていく演出センスが実にスタイリッシュ。フランス語を中心に10 ヶ国語がバンバン飛び交うドラマを日本語字幕で追うとサスペンスはさらに複雑になるわけですが、そんなのは表層だけの話で、アガサ・クリスティの1篇を読了したような爽快感がしっかり用意されています。これだけのキャラクターを立体的に描こうとすれば長尺になりそうですが、端折るべきところを思い切って端折ってドラマのリズムを尊重した結果ソリッドな仕上がりになっています。なにぶん登場人物が多いわけですが、個人的にはB級アクションと地味な文芸作品を活動の軸にしている稀有な女優、オルガ・キュリレンコが見せるさらに円熟味を増した優雅な演技が印象的でした。本作でフランス語も流暢であることを示した彼女は実際何ヶ国語喋れるのかが気になります。ひとことで言うと翻訳家版『グランド・イリュージョン』ですが、あそこまでの後出しジャンケン連発ではないというところが肝でしょうか。終始冷たい質感の映像も美しく見応えのある作品です。

よね