「前半1時間はテンポがよく、ラストは切なく考えさせられる」毒戦 BELIEVER mittyさんの映画レビュー(感想・評価)
前半1時間はテンポがよく、ラストは切なく考えさせられる
名前も顔も性別もわからない、裏の麻薬王「イ先生」を追い求める刑事ウォノ。何年たっても正体をつかめず、上司からも愛想を尽かされ捜査の打ち切りを命令されている。ある日、麻薬工場が爆破され全員即死と思われたが、唯一命が助かった青年ソ・ヨンナク(ラク)がおり、ウォノ刑事はその青年と手を組み大胆な成りすまし潜入捜査に突入する・・・みたいな感じで話が進みます。
最初の1時間はノリがよくて、あっという間に時間が過ぎてしまいました。ウォノがパク・ソンチャンになりすまし、中国のバイヤー、ハリムと取引するところは、見応えありますねえ。1時間後には、今度はハリムとなって、ソンチャンと顔合わせ。麻薬を吸って瀕死の状態になるところがすごかった。狂気のサイコパスのハリム、見たことある顔だと思ったら、プラ恋(ドラマ『プラハの恋人』)の人だった!びっくりしました。キム・ジュヒョク。でも、悲しいことにこの映画が遺作で交通事故で亡くなったんです。いい役者さんだったのに(T T)
ハリム、ソンチャン、ブライアン理事と、くせ者揃いで、狂気度、残虐性、バイオレンス、たっぷりでしたが、製造工場の聾唖の兄妹(妹か姉か?)の存在感も印象的。言葉はしゃべれないのに、なぜか元気な二人の行動は、邪魔にならないエッセンスの効いたBGMみたいでした。無表情なラクも彼らとコミュニケーションしているときは生き生きしていました。
イ先生の正体はかなり序盤で薄々、わかってしまいましたが、イ先生が誰なのか?という謎を解くサスペンスではないので、それがどう結末につながっていくのかが気になってしかたありませんでした。
ラストの雪が積もる山奥をウォノが車を走らせるシーンは、冒頭につながっているのですね。後で気付きました。(実はラストがよくわからず映画を2度見した!)美しい風景だけれど、後半からラストにかけては、胸がつまるような切なさみたいなものがありました。そして、あの銃声はいったい誰が?という疑問も残ったまま。ウォノの目はうっすら涙ぐんでいたような。
青年ラクの生いたちは貧しく悲しく不明瞭なもので、いつも他人を信じて生きてこられなかったようにも想像できます。常に「自分はいったい誰なんだ」という不安を持っていたように思えます。ウォノに出会い、多少、人を信じられるようになったようにも感じます。幾度もウォノを瀕死の状態から本気で救っていましたし、「僕はチーム長を信じています」とも何度か言っておりました。
自分としては、ウォノの「人生で幸せだったことは?」という問いに、ラクが「人を信じることができたことです」といって、自分で自分の頭に銃を向けた、と考えたいものです。ラストがすっきりわかる、拡張版があるようですが、見たいような見たくないような複雑なきもち。