「ネタバレありの考察です。映画鑑賞前には読まないでください。」嵐の中で melacareさんの映画レビュー(感想・評価)
ネタバレありの考察です。映画鑑賞前には読まないでください。
伏線が非常に多い映画でした。全シーン伏線なのでは?と思わせられるくらい、無駄なシーンが1つも無いよう感じられました。面白いです。
ニコが冒頭で「巻き戻し」を押したその日から、時が巻き戻される。
ここの表現の仕方がまず素晴らしかったです。
表情や言動で「?」と思わせる伏線は多々ありますが、その中でも私が好きな伏線は
・モニカの「新居はどう?」→「引っ越しの話を?」→「病院の半分は知ってる」
ダビドと不倫しているからつい口を滑らせたモニカ。何も疑わないベラ。
こんな細やかなところまで伏線がはられていたのには驚きました。
・「最後に娘さんを見たのはいつ?」→「昨日の夜よ」→「君が夫と言っている男性は?」
娘には”君が娘さんと言っているのは”と言わないのが良かったです。
対して夫(ダビド)には”君が夫と言っている男性”。
”ダビドが夫”という事にニコは自然と拒んでしまっているのがグッときました。
君を愛している夫は僕なんだというニコのささやかな独占欲と愛が感じられます。
・この流れでベラから「ニコ・ラサルテ」という名前を聞いて水を飲むシーンも、まるで唾を飲みたくなるような一瞬を、水飲みで大きく飲み込む表現をしているようで好きです。
・”ベラが未来では誰にも信じてもらえない”演出も、わたしはこれも伏線だと思っています。
ニコも「未来の女性」の話を誰にも信じてもらえなかった。
ベラはニコと同じように苦しみ、ニコの苦しみを理解する唯一の人物となります。
ベラはニコが総合失調症だった事や幻覚扱いをされていたことをニュースで知っています。
ミラージュの作者、カレンとの対談にて「私が体験したことだし ニコの写真もある」→「何も証明してない」「私たちは納得する生き物なの」「経験したと感じれば脳は現実だと思う」「幻覚を現実と思うようになる機能があるの」「現実がただの錯覚ならどうなると思う?」
これは、未来のベラが未来の人間と手を繋ぎ、記憶で”体験”をし、”経験”を感じる。
未来の世界では、未来のベラの”写真”も残っている。
でも、ベラはこの世界が現実だと納得は出来ないし、この世界の人にベラの話をしても納得してもらえない。ということを示しているのかなと思いました。
ニコが「今の人生を知りたくないか?」「ここでの君は違う人生を歩んでいる」「その人生も現実で君を大事に思うひともいるはず(大きくはニコの事っていうのもいいですね‥)」
そう聞いても、ベラは「遺体を見つけた」事しかいいません。こころや考えがまとまりづらくなってしまう病気、総合失調症に似た症状になってしまっているのだと思います。
ニコがカレン作者にニコの存在を隠していたのも、決して信じてもらえない事をわかっていたからですね。
そして、ニコは信じてもらえない原因も分かっていて、”事件”と”未来の女性”を結び付けて話した、「だから疑われた」と自身で語っています。
ニコは未来の女性が現れるのを待ち続け、親友とも離れ、長い悪夢の人生を歩むことになる
次から次へと入院を繰り返し、解放を望み、ベラの存在を否定するまで‥思春期時代でさえも苦しみの時を送ります。
ベラが自殺した理由は、ここに繋がると私は解釈しています。
ベラが誰にも信じてもらえないこの二日間の絶望的な苦しみを、ニコは何十年も味わってきました。
「私に執着せず1989年に戻って成長するの」
娘に会いたいというのももちろん間違いありません。
少年ニコと未来ニコがテレビ電話でつながった時、
少年ニコは、「未来の女性は?」と聞きます。
未来ニコは、「未来の女性ベラに執着・干渉しない事」を伝えたのだと思います。
他にも未来の女性を追っても周りからは幻覚と疑われ、誰も信じてくれない事、自分が病院を転々とし入院生活続きで総合失調症と診断され苦しむ事、未来の女性を愛すこと、その愛した女性の人生を実は変えてしまっていた事、事件を子供の頃に暴いても警察に信じてもらえなかったことなど、すべて話したと思います。
少年ニコは賢いので、少年ニコだけはその話を信じ、未来ニコの言う通りに人生を歩みました。
ラスト、ニコとベラが再開したとき、
「僕を知ってる?」の顔は眉をひそめていますが、
「あなたも思い出す」と言われた後のニコの顔は涙ぐみ、うっすら微笑みます。
この瞬間、今まで執着しないよう封じ込めていた記憶、自分の命を救ってくれた恩人である(幼き頃の)未来の女性を”思い出し”ているのだと思います。
あの日、未来の女性が助けてくれた日の、未来の女性の世界にあった、”現実”と
もしニコが死ななかった世界の”現実”が合わさり、
ニコにとってもベラにとっても”孤独の幻覚”が無い、”現実”となり、素晴らしいストーリーだと感じました。
ベラはダビドと離婚して、グロリアの親権を取り、ニコと再婚する事を願います。
また、これはとてつもなく好きな考察なのですが、
ニコと結婚している世界のベラは、子供がいません。
「優秀なのになぜ医学部を辞めた?」→「グロリアが生まれたし、中途半端は嫌だった」
ベラは医者になる夢がありましたが、妊娠して子供が出来たから夢を諦めました。
「グロリアを生み、医師は諦めた」
「あなたは父親を超えるため修士に進みたがった」「私は自ら進んであなたを支えた」
実際、グロリアの育児や家事をしているのはベラ。
医者になるのだとしたら、これらの両立は厳しかったと思います。
しかし、ニコと結婚している世界では、
子供がいない代わりに病院一の脳神経外科医になっており、夢が叶っています。
ニコはベラの夢をも大切にし、応援してくれていたことが分かります。
ベラの事をこころから愛しているからこそ、ですね。
嵐の中で とても良い映画でした。
タイトルをもう少しオシャレにしてほしいです。