「魔法を信じていた少女達が魔法玉を手に未来を切り拓く和製『ヘイト・ユー・ギブ』」魔女見習いをさがして よねさんの映画レビュー(感想・評価)
魔法を信じていた少女達が魔法玉を手に未来を切り拓く和製『ヘイト・ユー・ギブ』
私がちょうど20年前に観ていたのは第2シリーズの『おジャ魔女どれみ#』。長女が3歳で長男が生まれた2000年の日曜日の朝は『未来戦隊タイムレンジャー』、『仮面ライダークウガ』とこれが連続で放映されるという恐ろしく充実した時代。リーダーが女性、敵の目的が世界征服ではなく金儲け、実は時々敵が勝つという画期的な『〜タイムレンジャー』、刑事モノのような分厚いドラマ、昭和ライダーもやっていない派手なバイクアクション、主人公が熱血漢じゃないというこれまた画期的な『〜クウガ』、それに続く『〜どれみ#』も困ったら魔法で解決という安直さを完全にかなぐり捨てた展開、朝食のデザートにステーキを出されるような濃厚な週末は今でも忘れ難いわけです。そんな週末の一角を成していた作品の20周年記念ですから、当時一緒にテレビを観ていた長女と家内を連れて来てみました。
歯に絹着せぬ発言で煙たがられて営業から総務に異動させられた東京の商社勤務のミレ。
教育実習で赴任した小学校で出会った少年と上手く交流できなかったことで自信を失くした名古屋の大学生ソラ。
絵画の修復師になる夢を持ちながらだらしないミュージシャンの彼氏にたかられる尾道のお好み焼き屋店員レイカ。
世代も住んでいる街も違う彼女らの共通点は幼少期に『おジャ魔女どれみ』に夢中になっていたこと。魔女見習いのどれみ達が集っていた洋館MAHO堂のモデルとなった鎌倉の洋館をたまたま同じ時刻に訪れた三人は意気投合、連休の折にどれみゆかりの土地を訪ねる旅を共にすることに。それぞれに悩みを抱え様々な試練に晒される三人は励まし合いぶつかり合いながら自分たちの進むべき未来と向き合おうと奮闘する中で、ふとあることに気付かされる。
傷ついた彼女達がどれみの聖地巡礼を心に決める序盤の数分で胸をかき毟られたところに被さる“おジャ魔女カーニバル“で涙腺崩壊・・・まだお話始まったばっかりなのに傑作確定。小さな旅での出会いと別れ、かつて魔法を信じていた少女達が魔法玉を手に未来を切り拓いていく様を見つめるドラマはどこまでもリアルでずっしりとしたものですが、どれみ世代には懐かしさ満点のスラップスティックなギャグを随所に散りばめているのでどこにも湿っぽさが残らないサクサクでクリスピーな仕上がりで、三者三様の決意が結実するクライマックスの爽やかさが胸にジワっと染み渡ります。何気にロードムービーとしても一級品で、ご当地グルメやローカル鉄道の精緻な描写はGOTO欲を激しく揺さぶるかも知れません。
どれみたちの20年後を描くのではなく、どれみを観ていた女子達の物語という意味では、ハリー・ポッターが大好きだった子供達のその後を描いた『ヘイト・ユー・ギブ』的。パワハラ、離婚、発達障害、共依存といったいかにも現代的な問題に揺さぶられる女子達が魔法玉を手に奮闘する物語という意味では『82年生まれ、キム・ジヨン』的。実写映画でもなかなか踏み込みにくいテーマを敢えて選びながらも軽快さを微塵も損なわない絶妙なバランス感覚は20年経っても色褪せないどころか研ぎ澄まされている、そして何より当時のことをぼんやりとしか憶えていない長女が帰宅後どれみ関連の楽曲をググッて片っ端から聴きまくっていたことからも、本作の製作意図が大正解であったことを物語っていると思います。