「親の愛と才能」ロケットマン ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
親の愛と才能
デクスター・フレッチャーって才能あるんだあ。。ブライアンシンガーがブン投げた「ボヘミアン・ラプソディー」をヒットに結びつけた功労者らしいけど、その500倍よかった。
見かけ上ハデなドラマが展開するというより、主人公の内面に寄り添って、一緒に旅のお供をしていくようなアプローチ。
だから情動が頂点に達して号泣! とかじゃなく、ずっと祈るような気持ちで心の汗が流れっぱなしになる。
咳が出そうになった時以外、水分を一滴も摂取せずに気づいたら120分が過ぎていました。
そのアプローチと、急にカメラ目線で歌い出すシュールなミュージカル演出との相性がよく、要所要所で主人公のつらい境遇を軽やかに相対化してみせる。
起きてることはつらいけど、妙に浮遊感があり、重苦しくなり過ぎない。
製作総指揮で一切の美化を許さなかったというエルトン本人が、ユーモアのわかる人だからなのか。
そこが故人であるフレディ・マーキュリーを称揚した「ボヘミアン」との最大の違いでもあるのかな。
そのぶんこちらの方がリアルなスーパースターの苦悩に触れた感触があった。
タロンはイケメンで背も高くて、エルトンとは本来似てないはずだけど、体型を精一杯寄せたり、メイクや髪型、派手な衣装と特大サングラスのおかげで、そんなに違和感はなかった(ただサングラスを外すとやっぱりイケメンなので、そこだけは必死で脳内補正)。
以下、ほんのりネタバレ↓
「ボヘミアン」はある意味死に向かって行くドラマだっけど、この作品は逆に、これだけの目に遭いながら、今もエルトンが生き続けていること自体を祝福したくなるという、生に向かっていくドラマだった。
まあクライマックスはやや型通りというか、お行儀良すぎない? と思ったけど…
それと、エルトンにとって聴衆とは結局どういう存在なのかが気になった。理解者、共犯者なのか、あるいは才能に群がるアリンコなのか。
言及がないためアリンコ寄りに解釈することもできてしまうので、そこが少し残念。
それにしても冒頭の家族のミュージカルシーンは最高だったなあ。
互いに壁を巡らせ、本音を明かさない家族が、いざ曲がかかると高らかに満たされない思いを歌い上げるっていう。
タロンは言うに及ばず、子役の演技や歌も素晴らしかった。
冷淡で身勝手な両親に求めても得られない愛に苦しめられるものの、エルトンの音楽とファッションのセンスもまた、間違いなく両親から引き継がれたものだろうし、まあできすぎた皮肉。
子供は暗黒家庭のコスモクリーナーじゃないんですけど。。