「希薄な説得力」キュクロプス いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
希薄な説得力
ストーリーの整合性に無理が漂う内容。そもそもアルコール依存に因る幻覚が長期的に記憶修正を引き起こす設定が常識的ではない。有り得ないとは断言できないが、長期の服役中に省みる冷静さは持てたという想像の方が自然ではなかろうか。そして神憑り的な思い込みにも拘わらず、何度も騙される精神状況が腑に落ちない。前半の妻の幽霊が出てくる件もフリとして後半回収されるのかと思いきや、回収無し。そして最も難解なのが、殺された議員の息子という部下の刑事が浅い情にほだされて、父に手をかけた男を赦すどころか命を助ける件も共感に乏しい。俳優陣は鑑賞後にネットで調べるとあの伊丹十三監督のご子息、そして斉藤洋介の息子という、まぁ二世だらけの作品という事実にも驚く。演技なのか演出なのか、全体的にモサモサした動きが目立つのはなぜだろう。まぁ、演技というよりも多分制作側の中途半端感が滲み出ているのだ。作品名とあの有名な絵画を安易に出すことや、ガラティアに見立てたヤクザの愛人の立ち位置のあやふやさ、ともかくハードボイルド映画なのだから、テレビでは出来ないような過剰な、メーター振り切り展開が用意されてもよかったのでなかろうか。蛇の目のような主人公の顔つきは、顔芸として充分なのだから、それを生かした活躍を見せるべきだと思う。なによりこの手の作品で用意すべき濡れ場が無いのが寂しい。バイオレンスとエロは切っても切り離せないのだから。真相の暴露の、又その暴露返し的“コンゲーム”な手法が、今作品のキモなのは充分理解出来るし、それ自体は否定しない。サスペンス要素は充分汲み取れている。但し、その骨組みが堅固でなければ、コンセプトが幾ら斬新でも、作品としては瓦解しているように見えてしまう。何せ紆余曲折の末、やっぱ自分が殺してるのか的元の木阿弥は、驚愕というより、ともすれば噴飯ものさえ漂う危険性を孕むことを理解している、もう少し優秀な脚本家が参画できなかったのだろうか?勿体ない作品である。