「ドラゴンクエストに愛をこめて」ドラゴンクエスト ユア・ストーリー チャン3号さんの映画レビュー(感想・評価)
ドラゴンクエストに愛をこめて
ドラゴンクエストⅤをベースにした新映像作品。予告の映像からわくわくした。あのⅤの世界をどう表現してくれるのだろう。これは、ドラクエ史に残る名作になる、そう直感した。そう楽しみにしながら劇場へと足を運んだ。
壮大なストーリーを、一本の尺に収めるのはとても困難であり、省略するのはある程度仕方のないことだとは思っていた。プレイしたことがあるならば、補完して観ていけばいい。
ストーリーはⅤを丁寧になぞっている。ビアンカとフローラで悩む葛藤、ゲマの絶望感。あの日、自分が体験した感覚以上に、世界に入っていける気がした。嬉しくなった。
そしてクライマックスで裏切られた。
観ていた世界の破壊。主人公に感情移入できるように仕向けておきながら、自分たちは主人公の側にいなかった。ゲームの感情移入を否定するやり方。
映画館を出て、一緒に観ていた子に謝った。ごめんな、でも俺もすごく楽しみにしていたんだ。それから、帰る道すがら、怒りがふつふつと沸いた。
なぜ、こんな話にしたのか。ファンに深い傷をつけるような展開にする必要がどこにあった。あれほどドラクエを愛する者達に対して呼びかけておいて、世界を否定するのか。
中には、ドラクエのプレイヤーばかりに向けられた作品でないのだからという意見もあるだろう。(それならば予告や宣伝の仕方は欺瞞である)観客ひいてはこの社会に対しての前向きなメッセージ?は感じられた。それを受け止めてなお言いたい。
それを伝えるのにドラクエⅤを使う必要がどこにあったのか。ドラクエを出汁に使い、世界やプレイヤーの気持ちを踏みにじってまで伝えたい深い話なのか。これを名作だと言う映画批評家たちは映画の向こうにいる、目に見えない二十数年前前から続く、何人になるか分からないプレイヤーやファンが見えていない。
この映画には、監督の浅く身勝手な受け狙いばかりが感じられる。そういうことをやりたいのなら、ご自分のストーリーで伝えていただきたい。それから、あの程度のメッセージはわざわざ伝える必要などない。それは、プレイヤーだけの、自分の中にだけあるとずっと我々は知っている。この話よりも、よほどⅤ本編のほうが深い人の愛とメッセージにあふれているということも。