「あなたは『勇者』になれましたか?」ドラゴンクエスト ユア・ストーリー 白さんの映画レビュー(感想・評価)
あなたは『勇者』になれましたか?
知恵と勇気で絶望に打ち勝つのが『勇者』なのだと、リアリティを持って伝えてくれた、とても熱いメッセージの込められた映画でした。
映画鑑賞後、様々な考察や賛否両論の感想を楽しく拝読する中で「最初から『この映画はドラクエプレイヤーの物語です』と広報してくれたら良かった」との一文があり、これを読んでようやくこの作品の一つの意図に気付きました。
最初からドラクエそのものではなく、ドラクエプレイヤーの物語であると知っていたら、問題とされているラストの展開による主人公の驚愕や絶望を、他人事のように感じていたと思います。それではダメだったんです。
同一視した主人公の絶望を自分の事のように感じ、それを乗り越える事で観客自身が『勇者』となるように導く、というのが一つの目的だったように思います。
これはただストーリーのみをなぞるような気の抜けた映画より、原作であるゲームの「プレイヤー自身が勇者である」という姿勢、真髄へのリスペクトに溢れた、粋な試みではないでしょうか。
お客様気分で安全圏にいる観客に『物質的・客観的な事実』という『幻』を見せ惑わす魔王。
突然絶望の淵に立たされた観客は、その事実を見据えた上で「キャラクター達やドラクエの世界は自分の心の中で魂を持って生きている」と知恵と勇気を持って信じ、魔王に打ち勝たなければ、選ばれし『勇者』にはなれません。
この構成は、非常に見事にドラクエの勇者観を再現していました。実に王道の勇者物語です。
キャラクター達が、少なくともこの『映画ユアストーリーの主人公』の心の中で、魂や心、自我を持って生きている、というのは、主人公自身が掛けた自己暗示プログラムを、占いババに扮したフローラがごく自然に覆した事で、象徴的に表現されています。
私はこの優しく、親切に描かれたフローラと映画製作者の好意的行為に甘え、他にも様々に施された演出を無い『知恵』絞って読み解き、映画の表現を受け入れる事でユアストーリーの主人公と同じように、自分の心の中でも、ドラクエのキャラクター達や世界、「主人公達は平和を取り戻し、末長く幸せに暮らしました。めでたしめでたし」のストーリーが「魂を持って生きている」と、『勇気』を持って信じる事が出来ました。そして「もしかしたら全部死んでいる、ハリボテで作り物の偽物なのかもしれない」という魔王が与えた絶望を倒し、選ばれし『勇者』になれたのだ。と、ゲームクリア後の勝利感に酔っている所です。
いやー、してやられましたね。面白い作りの映画兼ゲームでした。3日間ぶっ続けでプレイしちゃいました。まあこの読み解き方も数多ある解釈の内の一つに過ぎませんが、こういう仕掛けだったのではないかと想像したら、私はドラクエユアストーリーを、より楽しめました。
あなたは『勇者』になれましたか?