「なんて不粋な創造力讃歌」ドラゴンクエスト ユア・ストーリー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
なんて不粋な創造力讃歌
僕はわりとテレビゲームをプレイするが、RPGは昔から
苦手で、『ドラゴンクエストV』(以下『ドラクエV』)
は近所の兄ちゃんのプレイを横でぽへ~っと眺めていた
記憶しかない。せいぜい「話の筋にかすかに聞き覚えは
ある」という程度の人間なのだが、本サイトや会社の
同僚等々から伝え聞く評判がすこぶる荒れ気味なので、
「逆に知識の薄い人間が観るとどうなるんだろ」
という妙な興味が湧いてきて鑑賞。
(こういうのを炎上商法と呼ぶのだろうか)
感想を最初にまとめてしまおうか。
「日本の3DCGアニメも結構やるね!」という
技術面での賞賛を跡形もなく吹き飛ばすレベルで、
シナリオ運びとテーマの訴え方が不粋だと感じた。
先述通り僕は原典に対して思い入れが深い訳では
ないが、これをもし自分の好きな物語でやられたら
たまったもんじゃないだろう。
...
とはいえまずは気に入った点を書く。
CGはさすが日本VFX界の雄・白組。ピクサーほどの
繊細さを要求するのはさすがに酷だと思うが十分に
イケてるレベルと思うし、日本のCGの進歩を感じた。
また、前半はさておき後半から終盤にかけては
盛り上がる場面もある。2人のヒロインはどちらも
健気で魅力的だったし、クライマックスの戦闘シーン
はなかなかの迫力。邦画CG映画でよくぞここまで。
だが、それ以外は正直……。
...
まず前半は、『これで後半盛り上がるの?』と心配
になるほどに無味乾燥だ。世界観もキャラの背景も
ドラマも、ダイジェストのような流れとドット文字
の説明だけでチャッチャと済ましてしまう。
例えば連続ドラマなどで“前回のあらすじ“だけ見て
感動したりエキサイトできる人は少ないと思うが、
本作はいわば前半まるまる“前回のあらすじ”である。
キャラクターや世界観への感情移入が薄いまま、
散文的に挟み込まれるアクションシーンだけで
どうやって気持ちを盛り上げろというのか?
英雄のように慕う父親が仇敵に殺される流れまでも
ダイジェストのように処理したのには唖然としたし、
主人公が冒険を通して成長する流れをまたしても
ダイジェストのように処理した所には辟易した。
...
もうこれ『ダイ(ジェスト)の大冒険』に改題
した方がいいんじゃないかと考え出したところで
2人のヒロインが登場し、そこから多少は腰を
据えてドラマが描かれるようにはなるのだが――
それでも物語の展開は抑揚も余裕もないし、
ヒロインと感動の再会!という場面も「感動も何も
ドット絵しか見てないから、性格も馴れ初めもよく
知らんし……」という感じで居心地が悪い(×2回)。
ことあるごとに「ドラゴンオーブが……」「あの城
での冒険で……」とかドット絵でサクサク処理した
部分が重要な要素として語られるのも、それらを
ゲームで体験していない人間からすると完全に
蚊帳の外に置かれた感じでやはり居心地が悪い。
まともに映画化したらそりゃ4時間でも6時間でも
足りないのかもだが、あれもこれもと浅く薄く描く
くらいなら、焦点を定めてそこだけ濃く描いた方が
まだマシだったのではと思える。
...
……で、あのオチである。
あのオチが無くても僕の判定はせいぜい2.5前後
だったと思うが、オチで更に判定を1.0下げている。
『物語は作り物でも、物語が人生に与える感動は
本物である』と、この作品のテーマと思しき部分だけ
を書き出せば、多少は高尚な作品にも聞こえるだろう。
だがこの作品は、原作への思い入れの少ない僕にすら
往年のファンを蔑ろにしているように感じられる。
主人公が『ドラクエV』を人生の糧としているという
部分をしっかり描写できていれば、映画の主題にも
少しは説得力が生まれたかもしれない。しかし作品内
での主人公の描かれ方は、物語から得たもので人生に
立ち向かう勇気を奮い立たせる姿ではなく、2人
のヒロインを巡って軽薄な言動を繰り返し、現実
ではただ暗闇でプレイに熱中するギークな姿のみ。
それが作り手の考えるファンの姿なのだろうか?
あのウィルスの言動も不愉快でしかない。
もし作り手の『ドラクエV』という創造物にかける
情熱がそれまでの物語から伝わってきていれば、
「あのウィルスは創造物に対する最も低劣な批判
として生み出されたキャラクターで、作り手は
物語を創造することへの敬意を逆説的に伝えよう
としたのだろう」と信じられたかもしれない。
だが「ファンなら分かるでしょ」と言わんばかりの
ダイジェストのような流れで世界観の説明やキャラの
感情描写を放棄し、父子の愛情も身分を越えた友情も
薄っぺらにしか描けないような物語のどこに作り手の
愛情を見出だせる? それは単にファンの記憶
と情熱に乗じた“逃げ”や“媚び”ではないのか?
...
これが『ドラクエV』という既存の物語ではなく
完全新規の物語なら、僕も少しは納得できただろう
(そもそもキャラクターが誰かの想像の産物だったと
気付くメタ構造の物語ならいくつもある訳だし)。
だが、これがもし自分の思い入れのある既存の物語なら?
人生の節々でその言葉や教えを思い出しては勇気付け
られるような物語が、きっと誰にもひとつはあると思う。
だがもしその物語のあらすじだけを聞いた他人
からこんなことを言われたらどう思うだろう。
「つまりはこれこれこういうのが結論なんでしょ?
どうせ誰かの作り話だしそれを本気にするのも
大人げないと思うけど、それを人生の教訓に
するのは君の勝手だしね、いいんじゃない?」
本作から感じる不快感はそういう類のものだ。
この映画の作り手自体、自分の敬愛する作品で
同じようなことを言われたら心底厭だと思うし、
本作でそういうことを言うつもりは毛頭なかったとも
思うが、最終的に僕が感じたのはそんな不快感である。
創造された物語が持つ力は巨大だと僕は信じているし、
優れた物語やキャラクターは、作者の意図や思惑をも
超えて本物の生命の輝きを放つものだとも考えている。
だが、それをこんなにも不粋な形で表現した
作品を、僕は恐らく今まで観たことがない。
<2019.08.09鑑賞>
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余談:
本作のタイトルそして季節とリンクして
大滝秀治の有名なCMフレーズを思い出した。
「つまらん! お前の話(YOUR STORY)はつまらん!」
岸部一徳がマジメ顔で世の正論だけを語っても
ちっとも大滝秀治の心に響かなかったのと同じで、
物語って聴き手がどう感じるか、どう伝わるかに
寄り添いながら語るべきだと思うんですよね。
(そういう教訓のCMだったのアレ?)
初めまして、お邪魔します。やっぱり第三者の視点からしてもプロ意識の大幅に欠落した内容である事を確認しました。登場人物を単なるコマとしか動かせない三流手法にフォローする事は凡そ偽善的と心得ます。壮大なテーマを愚弄した似非エンタテイメントは決して評価されるべきではありません。
きびなごさん、こんばんわ
「天空の花嫁」をやりこんだ人にとっては
ダイジェストであっても脳内補完できるんですよね。
俺もそうでしたから。
あそこでオーブ拾って、
ゲマに壊されて、
過去に戻ってすり替え~みたいな。
脳内補完してしまうから粗が気にならなくなったり、
メインの嫁選びを楽しんでしまうとか・・・
でも、なぜビアンカが優先?
なんて、幼少期がさっぱりだから
わからないんですよね。
俺は間違いなくフローラ選びますもん(笑)
浮遊きびなごさん、お久しぶりです!
わーい きびなごさんが帰ってきた! うれしいー! わーい わーい!
(原作のセリフのもじりです。)
「原作への思い入れがあまりない人に、この作品はどう映るのだろう?」と気になっていましたが、「やっぱり!」という感じですね(笑)
レビューで何よりも共感するのが、前半部分も十分に酷い出来だというご指摘です。
しばしば「ラスト10分まではよかったが──」という趣旨のレビューもお見受けしますが、「正気かよ……」と思います(^-^;)
原作ファンにとっても原作をあまり知らない人にとっても最悪のダイジェストで、ただ端折り過ぎというだけでなく、まとめ方やつなぎ方が本当に下手くそだと思います。
ストーリーの端々から原作への理解(と愛)がないということが伝わってくるんですよね。
ラストの“アレ”も、前半部分が酷すぎるからこそ、相乗効果で心底不快に感じるのだと思います。
これだけつまらない話を延々と見せられた挙句、「物語の力を信じろ!」みたいなことを言われても、「お前が言うなや!」って感じですよね(^-^;)