「大人になれ」ドラゴンクエスト ユア・ストーリー シュレッダーさんの映画レビュー(感想・評価)
大人になれ
初めてのレビューが、愛してやまないドラゴンクエストに関連したものを批判するものになってしまうのはとても悲しいですが、心の中を渦巻く気持ちを吐き出したくこの場をお借り致します。
ドラクエはゲームです。色んな楽しみ方をするプレイヤーがいるのは当然の事として……
ゲームの世界を破壊するために送り込まれたウィルスであるラスボスに対峙する主人公は、一体このゲームの「どこ」に思い入れを持っていたのでしょう。
幼少期をスキップする設定をし、ビアンカとの思い出を作るイベント(レヌール城やベビーパンサーとの出会い等)をすっ飛ばしてしまっては、「背中任せられるのはいつだって君」の説得力もありません。またVRの世界にいた大酒飲みで勝気で口が悪いビアンカを見て、幻滅すれど「それでも選ぼう」と思った理由もよく分かりません。
父王パパス(王であることも語られませんでしたが)の強さや偉大さ、パパスを失った悲しみ、その原因を作ってしまったヘンリーが抱く罪悪感等の要素を削っても、この主人公が「嫁」に思い入れがあるのであれば、ここの説明はもう少しするべきだったかと。
(主人公自身のパパスへの思い入れの無さが、過去の世界で父と過ごす自分に向けるセリフに溢れていますね)
結局、父に思い入れを持たず、嫁を選んだ理由もよく分からず、サンチョもどういう人間であるか説明もないのでただの涙脆いマリオみたいなおじさんに留まり、8年振りの再会を遂げた息子へも何だか淡白な反応を示した主人公は、それでも物語の最後に両親の仇であり自身を苦しめたゲマと、その背後にいるミルドラースと戦うことになるのですが……前述の通り、この主人公には父への思い入れはありません。母も朧気にしか記憶はありません。なのでゲマと戦う理由も必然的に薄いものになります。
更にミルドラースを削って現れたウィルスに対しても、果たしてこの主人公に倒せなくてはならない理由はあるでしょうか。
この世界がゲームの世界であることを熟知しており、ゲーム自体への思い入れも「嫁」以外の要素が見えない主人公は、ウィルスや作成者の何に憤っていたのでしょう。ゲームを邪魔されたことでしょうか。
ゲームの世界を否定するために入り込んだウィルスと、ここがゲームであると分かっている主人公がゲームのフィールドで戦う必要は何処にもなかったと思います。それこそ一旦VRの世界からログアウトして、実機のそばにいた運営の人に通報した方が余程「大人」な対応でした。しかしそうしなかった理由をゲームへの思い入れにするには、ラストまでのストーリーの中に彼自身の思いが見えません。ビアンカと子供を守りたい、の一言でも言えばいいのに。
監督が思いついてしまったラストとのことでしたが、そこに説得力を持たせるための材料を用意するでもなく、むしろゲーム本編から削り取ってしまっては何も伝わらないと思います。
それでもなお材料不足のままこのラストを敢行し、当然上がる批難する声には「大人になれって言いたい」などと仰る製作者、是非今こそあなた達が大人になって欲しいものです。
映像は綺麗でした。俳優による声の演技も違和感なく聞けましたし、オーケストラで聞くドラクエの歴代の名曲もとても素晴らしかったと思います。(選曲に?と思うこともありましたが)
雑なストーリーとラスト、これが無ければ★5だったと思います。