「ゲームをやっていなくても大丈夫」ドラゴンクエスト ユア・ストーリー べるRITZさんの映画レビュー(感想・評価)
ゲームをやっていなくても大丈夫
とても良い映画だと思います。何度も原作をプレイした身ですが、よい思い出とすることができました。
ドラクエ歴代最高傑作といえばドラクエVといっても過言ではないと考えています。本作は、その世界観を踏襲した映画であるという点をアピールポイントとして世に出されたものです。
原作ゲームでは主人公の人生をお嫁さん別にセーブデータ2つ作るといった女々しいプレイスタイルをとったのは、私だけではないと信じています。
当時の限られたゲームシステムとしては伝説級の拘りっぷりが思い出されます。選ぶお嫁さんによって子孫の髪の色まで変わるほか、幼少期と青年期で主人公の見る世界の広さが異なるなど、随所に拘りが光る素晴らしいゲームでした。拘りだけではなくシリーズを通してボリュームもものすごく、原作の主人公は歴代シリーズの中でも最も過酷な目にあってきた主人公かもしれません。それゆえに、どの作品よりも本作の主人公に感情移入するプレイヤーが多いと思います。
結婚のシーンや世代を繋ぐ場面の再現を現代の技術で3Dアニメにするという画期的な試みにはとても楽しみにしていました。
実際見に行ってみると、冒頭のシーンでは当時を思い出し、とても懐かしくなります。思い出補正によってはここでもう泣けてくるかもしれません。
物語はそれなりに省略されてしまい、急ぎ足であったり物足りないと思うところもありますが、必要十分は確保していると思います。逆にこれ以上は詰め込めないというギリギリまで情報量は多く、ドラクエをそこまで知らない客層を置いてきぼりにしない限界をよく攻めた方だと思います。
アニメーション、音響は圧巻です。これだけのアニメはポンポン作れるものではないと思います。何部作にもザクザク切り分けられて、製作陣がファンの顔色うかがいながら、費用・脚本と相談し微調整しながら何年もかけてダラダラ作っていくよりは、一点モノの思い出として一作品にまとめて仕上げてくれたことで生まれる利点もあると思います。例えばですが、親子またはドラクエVを未プレイの客層でも見に行ける作品となったと思います。ドラクエVについてそこまで思い入れのない客層をこれひとつだけで魅了できる作品として仕上がったであろう点は評価したいです。
ラスト数分のせいでレビューサイトもツイッターも荒れに荒れていて、悲しく思います。
原作には存在しないメタ発言を敵が唐突にぶちまけるという乱暴なものですが、つくりものの世界であっても、大切なものです。ゲーム会社がつくりあげたニセモノの世界であっても、私たちは何度でも、勇者を介して救ってきたじゃないですか。
今更そんなことを言われたって、私としては「うるせぇ」の一言で片づけておしまい。倒す手段を模索して、手段があるなら倒して冒険を続けるだけです。このラストのあたりから、ただのドラクエVの再現から副題の「ユア ストーリー」へとシフトしていきます。ご都合主義というのもアレですが、ゲームシステムで仲間にしたモンスターがボスを倒すカギとなります。それ以降は、どんなにドラクエVをやりこんだコアなファンでもたどり着いたことのない新天地です。主人公リュカの物語から、主人公を介してこの世界を救おうとしていた私たち自身の物語に昇華されるのです。使い古された感じはありますが、最後の最後で観客参加型に切り替えるための工夫だったのだと考えたら、あの原作改変の乱暴なセリフに対する嫌悪感や違和感は払拭できると思います。
とても良い映画だと思います。何度も原作をプレイした身ですが、よい思い出とすることができました。