「「ユアストーリー」ってそういう…」ドラゴンクエスト ユア・ストーリー よもぎさんの映画レビュー(感想・評価)
「ユアストーリー」ってそういう…
私はお恥ずかしながらベースとなったドラクエVは未プレイで、大まかなストーリーの流れやキャラ・アイテム名、ビアンカ派とフローラ派で血みどろの争いが起きているくらいしか知らなかったのですが、あの心踊るBGMを予告やCMで聞いては観ないわけにはいかない。
ストーリーはじっくり描かれるのは要所のみで、合間合間のゲーム的に言うところの「レベル上げ」はダイジェストでお送りされますが、何があったのかはドラクエV未プレイの私でも何とか分かる範囲ですし、盛り上がるBGMとかっこいい映像で余り端折り感もありません。
そしてその分、じっくり描きたいシーンはしっかり時間をかけて描いています。
3DCGで描かれた主人公リュカ君は表情も豊か。表情に合わせて声も
幼少期に強敵を前にして怯える声、父が殺されて泣き叫ぶ声、父の仇を前に怒り叫ぶ声、戦闘シーンの雄叫び、可愛い女の子を前にして緊張して固くなった声など非常に多彩。
単純で鈍感でちょっと抜けてるところがあるけど正義感が強く情に厚くてここぞという時には勇気を出せる、王道的な主人公の性格と、王道的なストーリー。
バトルシーンはフィールドを縦横無尽に駆けまわり、剣や魔法でかっこよく敵を倒していきます。
合間合間に挟まれるドラクエテイストなギャグや皮肉、ゲームでよくある行動を3Dで表現した事によるシュールさ等が程よい笑いを提供して主人公への感情移入を強めます。
ストーリーも中盤になる頃にはすっかりリュカの応援をしており、終盤・最終盤と敵の親玉に肉薄していき、ついに長年の雪辱を果たし、さああとは大団円からのエンディングスタッフロールかな?
…ここまでは
ここまでは良かった。
ここでそのまま終わっていれば星4以上は確実に付けていたと思う。
最後の最後で、これまでの興奮や感動を全て無かった事にするちゃぶ台返しを仕込んでいました。
まぁ、流行りのジャンルではありますよ、ああゆう設定。
私もそういう設定の作品好きでよく観たり読んだりしますし。でもこの映画には要らないです。
なんて言うか、「美味しいカレーの作り方」の動画を観ていて、ああコレは美味そうだ、よしあとはこれをご飯にかけて…というところまで行って何故かシェフがマヨネーズを取り出して一本まるごとカレーにぶち込む様を見せられたような感じです。
この作品のオチが脚本家のトンチンカンな自己顕示ではなく、視聴者への善意で出来ているのであれば、この脚本家はおそらく
「ゲームを批判する敵を相手に、世間では肩身の狭いゲーマーを勝利させる事で”ゲームを遊ぶ大人”を肯定した」
つもりなんじゃないでしょうか。
古い。認識が20年くらい古い。
「ゲームなんて時間の無駄」「子供がやるもの」「いつまでもゲームなんてやらず大人になれ」「ゲームやると馬鹿になる」
そんな決り文句がよく言われていたのも昔の話。
今やテレビでアイドルが「休日はテレビゲームやったり~」とか言っても驚かれないし、日本政府が世界に向けたプロモーションにゲームキャラクターが大量に出るし、首相がゲームキャラクターに変身するし、プロゲームプレイヤーだって居る時代。
子供を持つ親だって外は暑い・寒い・危ないから子供は家の中でゲームしてくれてた方が良いっていう意見もまかり通るし、ボケ防止にとおじいちゃんおばあちゃんがポケモントレーナーになってる時代だ。確かに20年前には考えられないだろうな…凄い時代だ。
勿論、ご立派なご趣味とまでは言えないが、ゲームやってるくらいで今どき批判されたり引け目を感じたりする時代では無い。
「ゲームなんて時間の無駄」→「そんな事は無い!」でゲーム好きの支持を得られる時代は20年、とまではいかないかもしれないが、15年くらい前には終わっている。電車男とかの辺り。
敵が使うセリフとしては「え、今更?」感が半端ない。
そんな時代に取り残された脚本家の「君はゲームをやっても良いんだよ(生暖かい目」という、あまりにも時代遅れのメッセージカードが、不朽の名作ドラゴンクエストを装飾のリボン代わりに、最新技術を駆使した映画を宅配便にして届けられたという事実。
この余りにも異常な事実を受け入れられない精神的嘔吐感が視聴後の劇場の異様な雰囲気の正体かもしれない。
スタッフロールが終わって、場内が明るくなった時のあの言葉に出来ない雰囲気は凄かった。
私は結構映画館に行く方ですが、あんな地獄のような雰囲気は初めての経験かもしれない。
ある意味貴重な体験だった。