「言葉では表現しきれないような「恋愛映画」」窮鼠はチーズの夢を見る Haruさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉では表現しきれないような「恋愛映画」
久々のレビュー投稿。本作においてはどうしても感想を残しておきたく、筆をとった次第である。
※注意※
先に追加分の2回目・3回目の感想を書いています。しかし、以前書いた初見での印象も残しておきたいので、消さずに下の方に記してあります。
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【2回目・3回目(※ネタバレ注意!)】
2回目は大伴先輩、3回目は今ヶ瀬の目線で映画を観た。視点を変えたら面白いな、コレ。正直、初見の感想を消したい気分(笑)。
まず、大伴先輩の視点で。たぶん、先輩はかなり早い段階(夏生と再会するちょっと前くらいから)で今ヶ瀬に惚れてる。最初の方は「惚れた」というより、一緒にいて心地良いというレベルかもしれない。話し相手的な感じで、今ヶ瀬との生活に気楽さと心地良さを感じ、次第に心を開き始めた。夏生との再会をきっかけに、今ヶ瀬を「惚れる」気持ちがだんだん増していく。でも、周りからよく見られたい、変な人と思われたくない、自分の今までの価値観を否定したくないという気持ちも少しあったからか、あの場では今ヶ瀬を選ばなかった。しかし、夏生と一緒にいても、今ヶ瀬のことを考えてしまう。そして、今ヶ瀬と初めて結ばれた夜から、先輩はもう本気で今ヶ瀬に惚れてると思う。それが確信的になったのが、たぶんゲイバーのシーン。先輩が歩きながら泣いているのが印象深かった。
次に、今ヶ瀬の視点で。今ヶ瀬の印象としては、気持ちが複雑に絡み合っていて、難しくてめんどくさい人。先輩がまた「流され侍」に戻って、自分が捨てられるかもしれないという恐怖を(勝手に)感じている。先輩をいまいち信じきれないところもあり、先輩が近づくと逆に疑心暗鬼になって離れていく。好きすぎていろいろ考えちゃうんだろうな。おそらく、恋愛のその先のことまでは、考えが及ばなかったのではないだろうか。先輩から「一緒に住もう」と言われても、首を縦に振らなかったのは、たぶんそういうことだと。
ラストあたりの海辺のシーン。「心底惚れるって、すべてにおいてその人だけが例外になっちゃう、ってことなんですね。」というセリフ。好きすぎるあまりに先輩を信じきれていない今ヶ瀬は「あなたには分からないか」と言ったが、先輩は「分かるよ」と返した。あの時、先輩は本気で今ヶ瀬のことを惚れていたから、素直にそう答えられたんだと思う。あの後、今ヶ瀬が海に向かって「あぁ、本当に好きだったなぁ」と叫んだところが一番グッときた。この海辺のシーンこそが、本作の主旨だと実感した。
成田の演技は「さすが」の一言。表情の引き出しの多さを改めて感じた。やっぱこの人の演技が好きだわ。そんな成田に負けないくらい、大倉の演技もとても良かった。声と表情に説得力があって、いろんな意味で今まで見たことない大倉を、本作を通して見ることができた。大倉の色気と成田の可愛さに魅了された本作。この2人だからこそ成立できた作品だといっても過言ではないだろう。
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【1回目(初見)】
先に述べておくが、私は人生や恋愛に対する経験値がまだ足りない。だからといって、感想が「分からない」だけになっちゃうと悔しくてたまらないから、本レビューにおける「分からない」という単語に関してはこの時点で封印しようと思う。
余談だが、本作を観に行った日はどんより曇天とシトシト降る雨の天気。晴天じゃなくて良かった。映画の雰囲気に合う合う。平日の夕方とはいえ、席もまぁまぁ埋まっており、若い女性が多め。友人同士で来た方が大半だった。
本作の第一印象を、抽象的な表現で言えば、「面白かったわけでも面白くなかったわけでもないが、かといって普通とは言い切れない作品」だった。2回目・3回目以降観れば、また違った感想を述べるかもしれないが、初見の印象はこんな感じだった。正直に言うと、ラスト20分あたりで頭がこんがらがってしまった。たぶん、この件に関しては上記の経験値などによるものだから、これ以上述べるのは避ける。それに、何回か観ていけば、もしかしたらいろいろと整理できるかもしれない。
ただ、面白くなかったかと言われたら、答えはノーである。映画を見終わった後の変な感覚。ふわーっとしているような、言葉では表現しきれないような感覚。これは余韻?見終わって数時間、いや数日経っても本作の余韻が残ってるなんて、今まで見た中ではなかなか珍しいパターンだ。
プラス、以前から行定監督の作品を手に取ることが多かったからか、本作においても「あぁこれぞ行定作品だなぁ」と感じた。今回はそれをとても強く感じた。行定監督が手掛ける恋愛映画を観てるなぁ、って感じ。本作に関しては、割と抽象的に描かれているが、その一つ一つがとてもリアル。誰かが誰かを愛する、今回はそれがたまたま男性同士だった。まさに「恋愛映画」だった。
もう一つ感想を言うと、大伴先輩は気持ちがはっきりしなくて(というか、ずっと迷ってるように見えた)ムズムズするし、今ヶ瀬はヒステリックでちょっとめんどくさいヤツ。そんな2人が激しく求め、愛し合うことで、逆に追い詰められているように見えた。お互いがお互いの首を絞めてるような気がして、胸が苦しいし息が詰まる。そういう「苦しさ」も本作の重要なキーワードかもしれない。キスをしても、体を重ねても、苦しくて満たされなくて切ない。決して綺麗事だけでは済まない、男性同士のリアルな恋愛模様がしっかり描かれていた。こんなに苦しい恋愛映画を観たのは、生まれて初めてだ。追い詰められていく2人を演じた、大倉と成田の演技がとても良かったし、「よくこの役を引き受けてくれた」と拍手を贈りたい。
と言いつつ、過激で際どいシーンのインパクトが強くて、大倉と成田のそれぞれの表情とか、あんま観てない気がする。本作は、確かに、何回も観てみたい。願望としては、あと2回くらい劇場で観たい(小声)。その際は、大倉と成田それぞれの表情を注目して観てみたい。
長くなってしまった。正直、ここまで余韻が残り続けている作品ってなかなかないと思う。「恋愛映画」として、オススメしたい一作だ。