「映画としては賛、原作ファンとしては否」窮鼠はチーズの夢を見る みょさんの映画レビュー(感想・評価)
映画としては賛、原作ファンとしては否
原作が大好きで何回も繰り返し読んでいます。
私のスタンスとして、監督の伝えたいことなどは映画を通して伝えてもらえれば結構なのでインタビュー等で語られる情報は皆無で鑑賞しました。
これが仇になったかもしれません。
先に良かったところをあげたいと思います。
・原作とは違う雰囲気
・キャストの表情
・演出の雰囲気
まず、この映画は漫画をそのままなぞるだけの実写化ではありません。
原作はどちらかと言うとセリフやモノローグで読者を捲し立てるように進んでいきます。
一方の映画は、セリフは少なく、モノローグも無し。
同じストーリー、キャラクター達でありながら、受ける印象は全く違います。
言葉で語る漫画から雰囲気で語る映画への転換は、この作品においては成功していたように思います。
とは言っても原作が未読だとキャラクターの複雑な心情が分かりにくいかもしれませんので、鑑賞後に読んでみることをお勧めします。
あくまで"映画鑑賞後"に読むべきだと思いますが…
次にキャストの表情についてですが、非常に細やかで私は演者さんの顔の動き、体の動きに釘付けになってしまいました。
特に、成田さんが演じる今ヶ瀬。
熱い視線で大倉さん演じる先輩をじっと見つめるシーンには、思わず私がどきりとしてしまうほど。
顔や体で語る、素晴らしい演技でした。
そして演出の雰囲気。
私が特に気に入っているのは、最初のホテルのシーンで二人の黒いシルエットが映る演出です。
とてもエロティックで、見ている側に二人の関係が変質していくのを予感させます。
全体を通して、落ち着いているのにどこか切なく、官能的な雰囲気が漂っていました。
次にあまり気に入らなかった点についてです。
・原作との違いによるキャラクターの変質
・分かりづらい
まず、私が一番気に入らなかったのは原作との相違によるキャラクターの変質です。
私は先に述べた通り原作が大好きだからこの映画を鑑賞しにいきました。
正直原作通りにやってもらえるなんて期待はほとんどしていなかったのですが、例え改変するとしてもこの改変は……
端的に言って不愉快な改変でした。
私の中の大伴恭一は、今ヶ瀬を愛したようにではないものの、それなりに関係を持った女性を愛していた男です。
窮鼠編ではそんな先輩像が辛うじて保っていたように思います。
しかしたまきちゃんとの関係が絡んでくる俎上編では、まるで変わってしまった。
原作の俎上編での先輩は、たまきちゃんをちゃんと愛していたはずなのです。
しかし映画では、まるで愛していなかったのでしょう。
だからこそたまきちゃんが選んだカーテンをダサいと言った今ヶ瀬(正直今ヶ瀬もそんなこと言わないと思います)に同調した。
私は、俎上編において、ちゃんと愛せているし将来も安泰な相手であるたまきちゃんを選ばず、もしかしたら明日居なくなってしまうかもしれないような今ヶ瀬を選んでしまう。
そんな先輩のどうしようもなく今ヶ瀬に落ちてしまっているところが、とても人間臭くて大好きでした。
なのに……あれは私の知っている先輩ではなかった。
加えて今ヶ瀬。
原作では、普段はクールなのに、先輩のこととなるとどうしようもない感情を持て余して暴走するタイプだった様に思います。
しかし映画では全編を通してどちらかと言うと「カシスオレンジ♡」なタイプのキャラになっていました。
まぁそこは成田さんの底無しの愛くるしさ故だと思うのでまだ良いのですが……
しかし、残念だったのは、言葉で捲し立てて先輩を飲み込もうと試みる饒舌な今ヶ瀬も、ヒステリックな今ヶ瀬もいなかったことです。
口がよく回るし、利口そうに見えてよく考えてみると滅茶苦茶なことを言っている、そんなところが今ヶ瀬の魅力の一つだったのですが。
台詞の少ない映画だったので仕方ないことだとは思いますが、残念でした。
それに、彼はストーキングしません……自転車も盗まない。
彼は確かに原作の中でも非常に粘着質です。
しかし、あの海での下りを起点として先輩を一度は完全に諦めると心に決める潔さを持ち合わせていたはずなのですが、映画では全く持って諦める様子もなく寧ろ悪化している。
正直、海のシーン何だったんですか?
必要でした?
原作ではホロリと泣いて呟くように「好きだったな」と言うシーンから叫ぶシーンに変えてまで、何のために叫ばせたんです?
諦めるためではないなら、何のため?
私の大好きなシーンが、そのシーンの存在意義を失った薄っぺらいものになってしまった様な気がして、とても切なかったです。
こんな切なさを覚えたくはなかったんですがね。
他にも色々ありますが、書ききれないのでここぐらいにします。
正直、乳首当てゲームをするぐらいならもっとたまきちゃんにフォーカスするべきだと思います。
あの乳首当てゲームのシーンは…なんだったんですか?
無駄はあるのに描くべきところは描かないのは何故?
それはそれはとても不可解でした。
インタビューを見てみると、どうやらラストは変えたという趣旨のことを前から言っていた様ですね。
今度から好きな作品の実写化/映像化がなされる際には、こうした情報をちゃんと集めてから鑑賞することにします……
そして、何度も繰り返してますがこの映画はセリフが少ない。
だからこそ分かりにくい。
雰囲気から読み取るしかないので、原作未読な人、特にキャラクターたちに共感できない人には分かりづらいでしょう。
加えて…先輩がどこまでもただクズにしか見えないですね笑
いや、原作でもやっていることはかなりのクズなんですが、原作はモノローグやセリフでこの人に愛着が湧く設計になっているんです。
それがないと、本当にクズでしかない笑
以上、他にも色々ありますが、ここぐらいにしておきます。
良い点もあったので2.5点という評価にしておきますが、正直、これを窮鼠だとは思って欲しくない。
なので是非、原作を読んだ方には"映画鑑賞後"に原作を読んでみてください。