「「泥にまみれた我々に、感謝の言葉はなかった」」彼らは生きていた Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
「泥にまみれた我々に、感謝の言葉はなかった」
日曜の映画館は満席で、補助席まで出ていた。
「白黒フィルムをカラー映像でよみがえらせた」がセールスポイントだが、実のところ、映像には期待しすぎない方がいいという印象だ。
カラー映像は、100年前の世界を鮮やかに我々の前に展開して見せ、「They Shall Not Grow Old」(英題)と思わせてくれる。
しかし、くすんだ色彩の軍服や地面や塹壕がメインで、“リアル”かというと少し違う気がするのだ。
3つのフェーズがあって、(a)英国内の映像は、そのまま白黒。
(b)前線での非戦闘時の兵士や戦死者の姿は、主に再現カラー映像。
そして、(c)撮影不可能な戦闘シーンは、絵やイラストである。
自分は、映像よりは、音声にひたすら神経を集中させていた。(声優を使っているのかと思ったら、本物の退役軍人のインタビューらしい。)
多数の兵士の証言が、“機関銃”のように矢継ぎ早に、すさまじい密度で語られるので、映像どころではないのである。
内容も充実しており、開戦時から、戦中、戦後へと推移するにつれて、兵士たちの心情も大きく変化するようすが克明に示される。
開戦時の高揚感や義務感、現実を知らないゆえの楽観。
そして、訓練のようす。「ドイツ人を殺せ」と、少年は年齢を偽って志願する。
ドーヴァー海峡を渡って戦地に赴く頃には、すでに高揚感は去り、厳しい現実がある。
迷路のような塹壕。泥に沈んで命を落とす兵士もいる。砲弾は頭上1メートルを通過し、死体は日常となり、明日は自分と思う。
退屈なので何にでも参加し、後方にいる時は売春宿に通う。
そして突撃命令。バタバタと左右の兵士が倒れる。“前進”すること以外は何も考えられず、鉄条網を突破してドイツの陣地に襲いかかる・・・。
そして終戦。
戦争とは「全くもって無駄」だと悟る。勝敗はどうでもよく、復讐心など持てずにドイツ兵に同情する。
待ちかまえる“失業”という現実。「見捨てられた」感覚。
兵器の進化で、きわめて残虐になり果てた戦争の現実が、一般市民に分かってもらえないギャップ。
帰還兵への風当たりは強く、「泥にまみれた我々に、感謝の言葉はなかった」。
本作品では、マップを使用したり、どこの戦線の話かなどといった、具体的、客観的な話は、一切述べられない。
その代わり、ひたすら兵士にフォーカスする。映像によってその“姿”に。証言によってその“心情”に。
多数の人間の姿と心情を合成して、超個人的な主観に到達しようとするかのようだ。
作り手の“執念”のようなものを感じる、圧倒的な作品であった。
ピーター・ジャクソンは、「LOTR」や「ホビット」のようなク○映画を作る監督だと、自分は思っているのだが、本作には脱帽である。