「これからの在りし日を歌う」在りし日の歌 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
これからの在りし日を歌う
コロナの発生地と世界から非難を浴び、なのに世界がコロナ第三波に苦しむ中、コロナに打ち勝ち経済回復したと一人喜ぶこの国…。
しかし、こんなにも素晴らしい作品を送り出す。
芸術は芸術。
子供が居ない私、ましてや中国のその時代や歴史など映画で欠片をほんのちょっとだけ食べた事あるくらいの私。
果たして共感出来るのか。
さすがに全てではないが、政治/歴史視点ではなく、あくまで一庶民/家族視点で語られていく。
家族の物語は万国共通。
さて本作、大まかなストーリーは説明ある通り。
中国の地方都市に住むヤオジュンとリーユンの夫妻は一人息子が川で溺死し…という、いきなり痛々しく悲しく始まる。
現在と過去が交錯する本作だが、そのようにちょっと入れ換えてみようかと。
中国で1979年から2015年まで実施されていたという“一人っ子政策”。文字通り、一組の夫婦に子供は一人だけ。爆発的に増える中国の人口を抑える為。それにしても、一昔前と思っていたら、ほんの数年前まで実施されていたとは…。
映画に話を戻すと…
2人目を妊娠したリーユン。が、すでに子が一人居たので堕ろす事に。それでもう妊娠できない身体に。
そして息子の死亡事故。子供を産めないという悲運…。
そこで夫妻は亡き息子と同じ名の少年を養子に迎える。が、成長した彼は夫妻に反発してばかり。特にヤオジュンとの関係は最悪。やがて成人し、本名と身分証を返し、旅立たせる…。
この30年、夫婦が望んだのは何も特別な事ではない。
子供が居て、誰もが営む平凡な“在りし日の歌”…。
それが政治政策や悲劇や人間関係で…。
勿論夫妻にも、最も穏やかな日々はあった。
まだあの地方都市で暮らしていた時…。
仲の良い友人と義家族の契りを交わし、息子同士は兄弟同然。
悲劇が起きてから夫妻は知人の居ない町へ移り住むが、かつての息子の親友が事故について秘密を隠している。
成長するにつれ自分の中の罪悪の木も大きくなっていき…。
夫妻が彼に掛けた言葉、夫妻が過保護な両親に掛けた言葉が胸打つ。
夫婦の歩んだ30年。
3時間の長尺でじっくり描き込んだワン・シャオシュアイの演出、中国近代史を背景に置きつつ家族物語にした緻密な脚本。
そして何より、夫婦の喜怒哀楽を体現したワン・ジンチュンとヨン・メイの名演が素晴らしい。
画も美しい。音楽も美しい。
喜びも悲しみも、日々は過ぎ去って。
そして、今。
人生苦楽あり。また新しい幸せが。
それはこの夫妻にも…。
過去の“在りし日の歌”ではなく、これからの“在りし日の歌”をーーー。